薄くて軽く、曲げられる太陽電池が、住宅・建築の分野でも少しずつ話題になっています。 その代表格のひとつがカルコパイライト太陽電池です。
ペロブスカイト太陽電池ほど名前は知られていませんが、すでに国内各地で実証が進み、2026年には本格的な量産も計画されている現実味のある技術です。
施主から次世代の太陽光発電について質問されたとき、特徴や設置事例を押さえておけば落ち着いて説明できます。
この記事では、カルコパイライト太陽電池の基本から特徴、ペロブスカイトとの違い、住宅への導入の現実性までをわかりやすく整理します。
目次
カルコパイライト太陽電池とは?

カルコパイライト太陽電池とは、銅やインジウムなどの金属を組み合わせた化合物で発電する、薄くて軽い太陽電池です。
屋根に載せる従来のパネルとは、構造も使い方も大きく異なります。
ここではまず、基本的な仕組みと呼び名から押さえていきましょう。
薄くて軽い「薄膜太陽電池」の一種
カルコパイライト太陽電池は、薄膜太陽電池と呼ばれるグループの一種です。
薄膜太陽電池とは、発電する層をごく薄く形成したタイプの太陽電池を指し、発電に使う層の厚みがわずか数マイクロメートルです。
薄膜太陽電池には光を吸収する力が強い材料を使用しているため、従来型のシリコンパネルのように厚みを持たせる必要がなく、その厚みは2〜4マイクロメートル程度で済むとされています。
CIGS太陽電池とも呼ばれる
カルコパイライト太陽電池は、CIGS(シーアイジーエス)太陽電池とも呼ばれます。
これは、主な材料である銅(Cu)・インジウム(In)・ガリウム(Ga)・セレン(Se)の頭文字を並べた呼び名です。
ガリウムを含まない初期のタイプはCIS太陽電池と呼ばれ、両者をまとめてCIS系やCIGS系と表現することもあります。
カルコパイライトという名前は、これらの材料が黄銅鉱(おうどうこう)という鉱石と同じ結晶構造を持つことに由来します。
なお、鉱石そのものを使うわけではなく、結晶の並び方が同じという意味で名づけられています。
呼び名は複数ありますが、いずれも同じ系統の太陽電池を指すと理解しておきましょう。
従来型の太陽光パネルと形状・使い方が異なる
カルコパイライト太陽電池は、住宅の屋根でよく見る四角いパネルとは形も使い方も異なります。
従来のシリコンパネルは、ガラスで覆われた硬く重い板状で、丈夫な屋根に架台で固定するのが一般的ですが、ガラスを使わないフィルム型のカルコパイライト太陽電池は、薄いシート状で軽く、曲げることもできます。
そのため、屋根や壁にシートを貼り付けるように設置するなど、これまでとは違う使い方が可能です。
カルコパイライト太陽電池が注目される理由

カルコパイライト太陽電池が注目される一番の理由は、これまで太陽光を載せられなかった場所にも設置できる可能性があることです。
軽くて薄く、曲げられるという性質が、設置できる場所の幅を大きく広げることから、住宅・建築の現場でも、提案の選択肢を増やす技術として関心が高まっています。
ここでは、注目される理由を4つの観点から見ていきましょう。
屋根に太陽光を載せられない建物にも使える可能性がある
カルコパイライト太陽電池は、屋根の強度が足りない建物でも使える可能性があります。
従来のパネルより大幅に軽く、屋根にかかる重さの負担を抑えられるからです。
たとえば古い住宅や倉庫など、重いパネルを載せると耐荷重の面で不安が残る建物があり、こうした建物では、これまで太陽光発電をあきらめるケースも少なくありませんでした。
しかし、軽いカルコパイライト太陽電池なら、そうした建物にも発電の選択肢を提示できる可能性が広がります。
壁面・カーポート・既設設備など発電場所を広げられる
カルコパイライト太陽電池が発電可能な場所は屋根の上だけでなく、壁面やカーポート、すでにある設備の表面などにも及びます。
カルコパイライトは薄く、曲げられて軽いという性質のため、設置場所の制限が従来型よりも少なくなります。
実際に、建物の壁面の設置したり、道路設備に設置する実証実験もおこなわれています。
住宅などへの実用化が進めば、屋根の面積が限られる場合でも壁などを活用して発電量を補うなどの対策もできるようになるでしょう。
災害時や遠隔地の電源確保にも役立つ可能性がある
カルコパイライト太陽電池は、停電時や電源を引きにくい場所での電力確保にも役立ちます。
軽くて持ち運びやすく、電線が届かない場所にも貼り付けて設置しやすいためです。
こうした自立した電源は、災害で停電した際の備えにもなります。 電源インフラに左右されにくい点は、防災を意識した提案にもつなげやすい特徴です。
再エネ導入が難しかった建物の選択肢になり得る
カルコパイライト太陽電池なら、再エネ導入が難しかった建物にも再生エネルギーを導入できる可能性があるでしょう。
重さ、形状の制約があり従来のパネルを積載できなかった建物も、重さや形状が比較的自由なカルコパイライト太陽電池なら設置できる可能性があるからです。
たとえば、福岡県では耐荷重の制約で設置が困難であった屋根、壁などへの導入をあと押しする動きも出てきています。
このような動きは住宅、非住宅を問わず再エネ導入の裾野をひろげることにつながっています。
カルコパイライト太陽電池の特徴

カルコパイライト太陽電池の特徴は、軽さ・柔軟性・光への強さです。
その一方で、量産やコストの面ではまだ課題も残っています。
ここでは、代表的な4つの特徴を整理します。
軽量で建物への負担を抑えやすい
カルコパイライト太陽電池の大きな強みは、軽くて建物への負担を抑えやすいことです。 ガラスを使わないフィルム型は、発電層が薄いぶん全体の重量軽くできます。
例として、東急不動産が植物工場で実証する製品では、重さが1平方メートルあたり約800グラム、厚みが約0.9ミリメートルとされています。(参照:国内初となるカルコパイライト太陽電池の壁面設置、東急不動産が植物工場で実証 | スマートグリッドフォーラム)
一般的なガラス付きパネルと比べると、屋根や壁にかかる負担は大きく軽減されるのは明らかです。
このように、建物の構造を補強せずに設置しやすい点は、施工のハードルを下げることにもつながります。
曲げられるため壁面や曲面にも設置しやすい
カルコパイライト太陽電池は、曲げられるため平らでない場所にも設置しやすい太陽電池です。
シート状で柔軟なため、垂直な壁面やアーチ状の屋根など、従来のガラスパネルでは難しかった形状にもなじみます。
実際に新潟県妙高市では、湾曲したアーチ状の屋根に厚さ0.8ミリメートルの製品が設置されました。(参照:https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/2605/28/news066.html)
このように硬いパネルでは追従できない曲面でも、柔らかいシートなら屋根の形に沿わせて施工できます。
設置できる形状が広がることで、デザインや建物の形を活かした提案もしやすくなるでしょう。
弱い光でも発電しやすいとされている
カルコパイライト太陽電池は、弱い光や高温の環境でも発電量が落ちにくいとされています。
これは、シリコンパネルとは発電の構造が異なるためです。
シリコンパネルは複数のセルが直列につながっており、影が一部にかかると全体の出力が大きく下がりやすい傾向があります。
一方でカルコパイライト系は、影がかかってもその面積分の影響にとどまりやすいためといわれています。
この性質から夏場の高温時にも出力が落ちにくいとされ、日本の気候とも相性が良いと考えられています。
製造コストや量産体制にはまだ課題がある
カルコパイライト太陽電池はシリコン型とは異なる強みをもちますが、その一方で製造コスト、量産体制の面ではまだ整備されているとはいえません。
主な材料となるインジウムやガリウムは算出地域が限られており、価格変動や調達リスクを抱えている状態です。
インジウム・ガリウムは重要鉱物に位置付けられており、安定供給に向けたリサイクルや使用量を減らす研究は進んでいますが、まだその方法が確立されたとはいえません。
そして、当然ではありますが原料の確保ルートが確立されていない以上、コストも不安定となっており、従来パネルの方が安く、安定して供給できます。
こうした課題があるからこそ、今後の量産化とコスト低減の動きを見守る必要があります。
カルコパイライト太陽電池とペロブスカイト太陽電池の違い

次世代の太陽電池としてよく比較されるのが、ペロブスカイト太陽電池です。
どちらも軽くて薄いという共通点を持ちますが、得意分野や課題には違いがあります。
ここでは、4つのポイントで違いを整理します。
どちらも軽量・薄型の次世代太陽電池
カルコパイライト・ペロブスカイトはどちらとも軽量で、次世代の太陽電池という点では一致しています。
発電層を薄く形成できるため従来のシリコンパネルよりも軽く、柔軟な製造が可能です。
そのため、双方とも従来型では設置が困難であった壁面や曲面などの設置が期待されています。
国や自治体もカルコパイライト太陽電池、ペロブスカイト太陽電池を次世代の太陽電池として後押ししている点も共通しています。
カルコパイライトは安定性や耐久性が注目されている
カルコパイライト太陽電池はその安定性、耐久性の高さが注目されています。
発電部分に無機材料を使用していることから、熱や紫外線による劣化が起きにくいと考えられているためです。
無機材料とは…金属など結びつきが強い性質を持つ材料のことを指します。 かつてのCIS太陽電池には20年以上の運用実績があり、屋外での長期使用に耐えてきた背景もあります。 長く安定して使える点は、設置後のメンテナンスを重視する場面で評価されやすい特徴です。
なお、ペロブスカイト太陽電池は発電部分に炭素を含む有機材料が使用されており、水分や酸素、熱、紫外線の影響を受けやすく、発電層が分解しやすい傾向があります。
これらの劣化要因を遮断する処理が必要となっており、耐久性ではカルコパイライト太陽電池に軍配があがっています。
ペロブスカイトは低コスト化や国産化への期待が大きい
ペロブスカイト太陽電池に期待されているのは、太陽電池の低コスト化、国産化の部分です。
ペロブスカイトは材料を塗ったり印刷したりして作れるため、製造工程が少なく、量産できれば低コスト化が見込めます。
さらに、主な原料となるヨウ素は日本が世界第2位の生産量をもっており、国内調達が容易な面も魅力です。
そのため、エネルギーの安定供給という経済安全保障の観点からも国産化が期待されています。
ただし、大きな面積で安定して製造する際の耐久性などはまだ課題がある点は理解しておきましょう。
なお、カルコパイライト太陽電池は原料が重要鉱物であるインジウム、カジウムであることから、安定した原料供給とコスト面では不安があります。
この点ではペロブスカイト太陽電池の方が優位性があるといえるでしょう。
将来的には組み合わせて使う研究も進んでいる
ここまで説明したように、カルコパイライトとペロブスカイト太陽電池は似た性質をもちながら、双方の欠点を補い合うような関係です。
そのため、将来的には両者を重ねて使用するタンデム型発電機構の研究も進んでいます。
タンデム型とは性質の異なる太陽電池を上下に重ね、吸収できる光の範囲を拡張して発電効率を高める仕組みのことです。
具体的にはペロブスカイトが短い波長の光を、カルコパイライトが長い波長の光を電気に変えることで、単独よりも変換効率を向上させる効果が期待されています。
カルコパイライト太陽電池の設置事例

カルコパイライト太陽電池は、すでに全国各地で実証や導入が始まっています。
ここでは、代表的な3つの設置事例を紹介します。
植物工場の壁面に
東急不動産は、京都府木津川市の人工光型植物工場テクノファームけいはんなで、壁面にカルコパイライト太陽電池を設置する実証を進めています。
導入容量は36kWの予定で、想定される年間発電量は45,390kWhにも及びます。
なお、稼働は2026年7月を予定しており、これにより配電ロスの抑制やスペースの有効活用、雨天時の利便性向上などが期待されています。
(参照:国内初 建物壁面への「カルコパイライト太陽電池」設置)
道路情報板や道路監視カメラ
名古屋電機工業は、道路情報板や道路監視カメラ向けにカルコパイライト太陽電池を設置する実証をおこなっています。
この実証は最終的にペロブスカイト太陽電池とのタンデム化を見据えたものであり、効率の面でも耐久性に面でも優れた再エネ導入が可能かを立証する意義もあります。
福岡県内3カ所を対象に設置が実施中です。
(参照:国内初!カルコパイライト太陽電池を活用した道路設備向け実証実験を福岡県で開始 – 名古屋電機工業株式会社)
工場・倉庫・公共施設
日揮とPXPは、横浜市の施設屋根で、工場や倉庫の折板屋根を想定した大面積モジュールの発電実証を実施しました。
この製品は1平方メートルあたり約2キログラムと軽く、屋根への負担を抑えながら施工できることを立証した実験ともいえるでしょう。
また新潟県妙高市では、公共施設の屋根に設置した電力を市内の施設へ供給するサービスも始まっており、自治体を中心として徐々に新世代の太陽電池が広がっているといえます。
(参照:フィルム型カルコパイライト太陽電池を用いた発電実証実験を開始)
まとめ
カルコパイライト太陽電池は、軽くて薄く曲げられる特性で、これまで太陽光を設置できなかった場所に発電の可能性を広げる次世代の太陽電池です。
壁面や曲面、道路設備など各地で実証が進み、2026年には本格的な量産も計画されています。
安定性や耐久性に強みがある一方、コストや量産体制にはまだ課題が残るため、住宅への本格的な導入はこれからの段階です。
施主に最新の選択肢を提示するためにも、こうした次世代技術の動きを押さえておくのも重要です。
なお、現時点ではカルコパイライト太陽電池は家庭用の製品を量産する段階には入っていません。
現時点で再エネに関心をもつ施主へ案内できるのは、やはり従来型の太陽光パネルです。
コストの面も安定しており、また耐久性や安定稼働の面でも信頼ができるのには変わりありません。
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