現代中国「サプライチェーンマネジメント」史:高口康太

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文:高口康太

中国において「サプライチェーンマネジメント(供應鏈管理)」は企業経営そのものに直結するほど重要度の高い思想として広まりつつある。近年では「SCM専攻」を新設する大学も増え、今年に入って学術誌が創刊されるなど、盛り上がりを見せている。SCMの思想が中国でどのように発展し、受容されていったのか。ファーウェイやアリババ、シャオミなどの企業を題材に現代中国におけるSCM普及の過程をたどる。

中国のSCMは企業経営に直結した思想となりつつある

ここ数年、中国で「供應鏈管理」(サプライチェーンマネジメント、SCM)が盛り上がりを見せている。

2020年1月には学術誌『供應鏈管理』が創刊された。中国物流・調達連合会が主管し、「SCMに関する最新の理論と応用の紹介、国内外の成果の紹介、理論から実践への社会実装と交流」を目的にしているという。創刊直後の新型コロナウイルスの流行が始まったこともあり、「コロナ禍のサプライチェーン危機」などの緊急特集が目立つが、ともあれSCM単体で学術誌が成り立つようになったわけだ。

「SCM専攻」を立ち上げる大学も増えてきた。2020年春時点で、中央財経学院、山東大学、華南理工大学広州学院、西南財経大学などの名門大学も含め、25の大学がSCM専攻コースを擁している。その多くがここ2~3年に新設されている。

2020年に新設された華南理工大学広州学院SCM専攻では、SCMは次のように紹介されている。

「SCM専攻は総合性の強い学科です。物流・調達管理、ビジネス管理、マーケティング、EC、金融、ICT(情報通信技術)など多くの学問的基礎の上に、ビッグデータや情報管理などの先進的技術の発展に伴って誕生した新たな商業専攻です。SCMは特定の業務にのみ注目するのではなく、商品やサービスが原産地から消費地にまで移動するすべてのサプライチェーンを管理するものです。

マーケットニーズの分析から始まり、商品の設計・開発、サプライヤーの開拓と管理、品質管理、製造運用、国際貿易、物流、アフターサービス、さらには政策法規や情報技術、顧客管理にまで及びます。企業に競争力をもたらし、エンドユーザーの価値を創造するものです」

もはやサプライチェーンという言葉を跳び越えて、企業経営そのものに直結した思想となっている。SCMの含意がなぜこれほど拡大したのか、中国で今なぜこれほど重視されているのか、それには歴史的背景がある。

中国でSCMの含意が拡大している

GettyImages

中国におけるSCM普及、第一・第二の波

SCMという言葉そのものは1980年代初頭に生まれたとされ、開発、調達、製造、発送、販売という各プロセスでの効率化を進め、全体最適を目指す発想である。1つの企業内に完結せず、サプライチェーンを構成する諸企業の協調を目指す点が特徴だろう。

世界的に見てSCMの重要性が増した背景には、国際分業の進展がある。企業のグローバル化が進み、調達、製造、販売のすべてが国境を越えて広がり、複雑化していく。この大状況において、いかに効率的にマネジメントできるかが、競争力に直結するためだ。

このグローバル化において、中国の経験は日本などの先進国とは異なる。先進国ではローカルからグローバルへと徐々に転換していったのに対し、中国は改革開放(編集部注:1978年から鄧小平体制のもと実施された経済政策)に伴いグローバルチェーンに組み込まれる形で市場経済が浸透していった。つまり、最初からグローバル化に直面していたとも言える。

当初はサプライチェーンのなかで管理される側だった中国企業だが、国内の産業基盤が成熟するにつれ、環境が変化していった。外資によって育てられたサプライチェーンを有効活用することが、企業成長に直結するようになったのだ。代表格として知られるのが、世界的な通信機器・端末メーカーの華為科技(ファーウェイ)だ。

同社は1998年に米IBMをコンサルタントに迎え、国際標準のSCOR(サプライチェーン運用参照モデル)を中国企業としてはいち早く導入した。従来は受注、部品調達、製造の調整に失敗し、期限通りに納品できる比率は30%以下だったが、SCMの導入によって大きく改善した。その後、ファーウェイ自身が世界的な事業者となるが、SCMによる効率改善が競争力の源泉になったとされる。創業者の任正非が「(サプライチェーンの問題が)解決したならば、企業管理の問題は原則的にはすべて解決する」との言葉を残しているゆえんだ。

2000年代に入り、SCMはさらに重要性を増していく。EC(電子商取引)の発達などインターネットがもたらす新たなビジネスモデルが登場するなかで、販売・物流の一括管理やビジネスのスピードアップが求められたためだ。

ここでも中国ならではの事情が登場する。中国は世界トップのEC先進国として知られるが、新興ブランドが無数の製造事業者を活用し、超高速で新商品を開発し、インターネットを通じて販売していく事例が増えている。

広東省東莞市にある華為科技(ファーウェイ)の新キャンパス

広東省東莞市にある華為科技(ファーウェイ)の新キャンパス。2020年1月、筆者撮影

2000年代後半からは淘品牌(タオ・ブランド)と呼ばれる新興ブランド群が注目を集めるようになった。実店舗を持たず、中国EC大手アリババグループのショッピングモールでのみ販売する新興メーカーだが、ソーシャルメディアを中心としたインターネットでのマーケティング、多数の下請け工場を通じて大量の製品を開発、売れ筋商品を見極めた上で高速で追加製造するという、小回りの利く手法で勢力を伸ばした。

低価格のアパレル、バッグ、化粧品などが中心だが、大きな成功を収めた企業も登場している。ブランド立ち上げからわずか3年で上場を果たし、時価総額1兆円を超えた化粧品ブランドのパーフェクトダイヤリー、この中国型の手法を海外市場に展開したファストファッションのSHEIN(シェイン)などは世界的な企業へと発展している。

こうした手法は粗雑にも見える。実際、超高速の商品開発と膨大な商品数の多さは品質管理の難しさにもつながるなど問題は多いようだが、だからこそ企画から販売までの時間短縮、マーケットニーズの見極めと追加製造、そして困難な中での品質管理というSCMの重要性が増している。

インターネット時代のSCMで競争力をあげている中国企業は、アパレルやバッグなどの企業だけではない。出荷台数世界3位のスマートフォン・メーカーに躍進した小米科技(シャオミ)もエクセレントカンパニーとして知られる。

同社のビジネスモデルの特長はきわめてコストパフォーマンスの高い製品を、EC中心で販売する点にある。ハードウェアの粗利益率は5%以下に抑えるという大胆な方針から、同一スペックの製品では他社よりも数割安いという価格破壊を実現している。端末そのものは利益源とはならないが、端末に搭載されているアプリの課金や広告収入などの、粗利率が高いコンテンツビジネスを組み合わせることで、全体的な利益を確保する戦略をとっている。

この戦略を実現するためには、ハードウェアの販売サイクルを短縮する必要がある。もともと粗利率が低いところに在庫を抱えれば、それだけで損失につながってしまう。そこで必要となるのが製造から販売までの時間短縮だった。自社EC中心での販売でエンドユーザーの情報を保有しているという優位もあり、シャオミではニーズの把握と製造を直結させ、平均10日という超短期間の在庫サイクルを実現している。

広東省深圳市の小米(シャオミ)ショップ

小米(シャオミ)ショップにはスマートフォンだけではなく、電子レンジや炊飯器などのIoT家電も並ぶ。2020年1月、筆者撮影

また、シャオミはスマートフォンやスマートテレビなどの自社製品以外にも、提携企業によるIoT(モノのインターネット)製品の販売にも力を入れている。その1つ、スマートウクレレを販売するPopuMusicに以前話を聞いたことがある。

シャオミはPopuMusicのような新興企業に対して出資し、さらに自社ECサイトでの販売チャネル提供という資金面、販売面での支援を行っているが、加えてサプライチェーンについてもサポートがあるという。冒頭の華南理工大学広州学院の紹介にもあったように、SCMにはサプライヤー開拓という要素も含まれている。シャオミは自社と提携企業による大量の調達経験を新興企業に共有している。新興企業にとってはなかなか手が付けられないSCMを、大企業によって支援するという形態だ。

PopuMusic WEBサイト

(出典:PopuMusic)

SCM普及の第三の波、巨大IT企業が中核に

グローバル化、インターネットによる新しいビジネスモデルという波を受けて加速してきたSCM普及の流れだが、ここにきてDX(デジタルトランスフォーメーション)という新たな追い風が生まれている。

さまざまな企業活動をデジタル化、データ化する。そうした諸データを連携させることで企業活動の自律化・自動化を目指す。こうした世界的な潮流が中国にも到達している。かつてはSCMソリューションと言えば、江蘇飛力達国際物流、深圳恰亜通供応鏈などの物流管理を中心に行う企業が中心だったが、近年ではERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)ソリューションを提供するソフトウェア企業、阿里巴巴集団(アリババグループ)や騰訊控股(テンセント)、ファーウェイなどのクラウドコンピューティング企業へと重心が移りつつある。

この第三の波における中国の特色をあげるならば、中国系クラウドコンピューティング企業がB2Bソリューションの開発に積極的な点だろう。前述の阿里巴巴集団(アリババグループ)、騰訊控股(テンセント)、ファーウェイはいずれも製造現場や港湾、鉱山など特定の現場に則したソリューションを発表している。本メディアの記事「エンド・ツー・エンドのデジタル化をいかに達成するか?――中国製造現場の企業間連携」でも取りあげたが、巨大IT企業が中核となったSCM普及が進みつつある。

中国の深セン市

GettyImages

冒頭で紹介した、ここ数年の活況はまさにクラウドコンピューティング企業の先導によるビッグデータの活用など、最先端のデジタルをいかにSCMに活用するかという動きに呼応している。こうした状況のなかで中国企業におけるSCMの重要度は、今後ますます高まっていくだろう。

高口康太

高口康太

フリージャーナリスト、翻訳家

フリージャーナリスト、翻訳家。1976年、千葉県生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。二度の中国留学経験を持つ。中国をメインフィールドに、多数の雑誌・ウェブメディアに、政治・経済・社会・文化など幅広い分野で寄稿している。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、など。

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