総合商社のビジネスモデルで理解する――不確実性のリスクとサプライチェーンの重要性

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文:村上 茂久

「ラーメンからミサイルまで」と言われるように幅広い業種でビジネスを展開している総合商社。そのビジネスは掴みどころがないように思われるかもしれないが、プロジェクトファイナンスやファンド投資に携わってきたファイナンスの専門家である村上茂久氏は「サプライチェーンの観点から読み解くことで、川上から川下まで展開する総合商社のビジネスモデルがわかる」という。総合商社のビジネスモデルを題材に、不確実性が高い現代においてどのような事業展開を行うことが望ましいかを考察する。

村上 茂久(むらかみ しげひさ)

1980年生まれ。経済学研究科の修士課程を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして大手企業や地方の新規事業の開発及び起業の支援等をしている。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も実施している。

サプライチェーンのすべてを抑える総合商社のビジネスモデル

総合商社とは幅広い産業分野で原料や加工品、サービスなどあらゆる商材を扱い、売手と買手を結び付け、取引を仲介したり、事業会社に投資をしている会社です。事業や商材を売り出すために、販売チャネルの開拓や新たな物流ネットワークづくりを行い、金融・保険機能を果たし、複数の国を跨ぐプロジェクトも手がけています。そんな総合商社のビジネスにはサプライチェーンと深い関わりがあります。

まずは、「サプライチェーン」と「バリューチェーン」の説明をします。サプライチェーンとは、製品の原材料の調達から製造、配送、販売、消費といった、製品が供給されるまでの流れを表したものです。

一方でバリューチェーンとは、企業の活動を、購買物流、製造、出荷物量、販売・マーケティング、サービスから構成される「主活動」と、全般管理、人事・労務管理、技術開発、調達活動から構成される「支援活動」に大別したうえで企業の活動を示したものです。バリューチェーンでは「価値がどのように運ばれるか」に重点を置いて分析をしています。

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(出典:マイケル・ポーター『競争優位の戦略』(ダイヤモンド社、1985年)、Business Insider Japan『大戸屋HD、オイシックスと業務提携で買収防衛狙う。鍵握る個人株主の選択は「利益」か「企業文化」か』)

サプライチェーンとバリューチェーンは似ていますが、厳密には違うものとされています。とはいえ、両者ともにビジネスの流れを示しているという点では同じであり、本稿では、サプライチェーンをビジネスモデルの観点から考察をするという点を重視していることから、以下ではサプライチェーンのなかにバリューチェーンの意味合いも含まれているものとして話を進めることにします。

それでは、本題である総合商社のビジネスモデルを見ていきましょう。以下の図表が総合商社の1つである三菱商事の事業領域を示したものです。

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(出典:三菱商事中期経営戦略2021)

上の通り、三菱商事の事業領域は大きく分けると横軸の「生活」、「モビリティ・インフラ」、「エネルギー・電力」、そして「サービス(IT、物流、金融等)」の4つになります。さらに、縦軸を見ると、原料や材料等を生産したり、研究開発や事業の企画設計等を行ったりする「川上」のビジネス、川上から購入した材料をもとに製造等を行う「川中」のビジネス、そして、川中で製造された製品等を消費者等に届ける「川下」のビジネスの3つに分けられています。この川上から川下への流れは、まさにサプライチェーンそのものです。

総合商社のビジネスの強みはこのサプライチェーン全体を抑えているところにあります。川上から川下まで抑えるようなビジネスを展開しているので、サプライチェーンすべての領域で利益を出すことができるのです。とはいえ、それは容易いことではなく、「利益構造」の見極めが必要です。

利益構造を示す「スマイルカーブ」や「アングリーカーブ」

サプライチェーンの利益構造を見極め、ビジネスモデルを理解する上で役に立つのが「スマイルカーブ」です。スマイルカーブとは、縦軸に利益、横軸に川上の「企画・開発・設計・原材料」、川中の「組立・製造」、そして川下の「サービス・販売」といったサプライチェーンを図示したものです。

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スマイルカーブ(GEMBA編集部にて作図)

スマイルカーブの所以は、まさに笑顔(スマイル)を描いているような曲線にあります。この曲線が意味するところは、ビジネスの川上となる「企画・開発・設計・原材料」と川下の「サービス・販売」の利益は大きく、他方、「組立・製造」の利益は小さくなる点にあります。

このスマイルカーブは、iPhoneやiPadを製造しているAppleのビジネスを見てみれば理解がしやすくなります。Appleは、スマイルカーブでいうところの利益が大きい「企画・開発・設計」や全世界に展開しているApple Storeで「サービス・販売」を担っています。一方、利益が小さい「組立・製造」は外製化をしています。そのため、Appleは、自らが工場を持たない「ファブレス(工場がない)」企業のメーカーとしても有名です。

もちろん、経済の成熟状態によって、カーブの形状は変わります。実際、経済が成熟・高度化する前は、「組立・製造」が大きな価値をもたらす「アングリーカーブ」(怒った口のような曲線)の形状でした。これは、組立・製造の利益が大きく、残りの2つは利益が小さい状態になる傾向にあります。この時期には自前で工場を持ち、組立・製造をすることには意味がありました。実際、日本の製造業は、戦後に加工貿易で成長してきた歴史があります。

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アングリーカーブ(GEMBA編集部にて作図)

しかし、経済が成熟するとスマイルカーブのような利益構造に変わっていき、利益が大きい「企画・開発・設計」や「サービス・販売」をいかに確保できるかが重要になっていきました。なお、このスマイルカーブやアングリーカーブは必ずしもすべての産業に当てはまるわけではなく、業界によっても形状は変わってきます。そのため、それぞれ業界の利益構造を見極めた上で、どの分野でビジネスを展開していくかを判断することが重要となります。

内製化と外製化それぞれのメリット

上述した利益構造を踏まえて、事業を展開するにあたって、サプライチェーンのどの部分を内製化すべきか、何をもって判断すれば良いのでしょうか。以下で、内製化と外製化それぞれのメリットを見ていきましょう。

内製化のメリットは、自社で事業を行うことでノウハウが溜まるとともに中長期的には外製化するよりも安くなることが多いという点です。逆にデメリットとして、一度内製化をすると、環境の変化に合わせて他社と柔軟にビジネスを展開しにくくなることや初期投資がかかるということが考えられます。

経済学の取引費用理論(Transaction Cost Theory)によれば、①不測事態の予測の困難性、②取引の複雑性、③資産特殊性(特殊な資産、技術、ノウハウ、経営資源)の3つの条件が高いときは、外製化ではなく、内製化をすることが望ましいとしています。

総合商社は自らが川上から川下の企業に対して出資を行うことで、サプライチェーンをほぼすべて内製化させています。そうすることで、サプライチェーン全体でリターンを得ることを目指しています

一方、外製化のメリットは取引相手の自由度をもてるという点です。取引ごとに最適な事業パートナーを選び、自社に最も望ましい取引をその都度選択することができます。デメリットは、取引条件によってはコストがかかる、自社内にノウハウがたまらないなどがあげられます。

もちろん、すべてを内製化しないという判断も時には必要です。さきほど述べたAppleは外製化を活用して成功している企業です。Appleでは、利益が大きい川上と川下を内製化し、利益が小さい川中は外製化するという戦略をとっています。

GettyImages

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川上から川下までの領域でビジネスをしている総合商社は、すべてのフェーズで利益を取れるという点が強みですが、領域が広いからこその難しさもあります。

1つめに、グループ企業以外の取引先企業と柔軟に取引きがしにくいということがあげられます。グループ間で強固なサプライチェーンができてしまうと、そこから逸脱するような動きは取りにくくなります。また仮に、グループの企業より他社の条件が良かったとしても、グループの企業を使わざるを得ないときもあるかもしれません。

このことは「ホールドアップ問題」としても捉えることができます。ホールドアップ問題とは、一度投資や契約が行われてしまうとなかなか元に戻すのが難しく、相手方の交渉力が強くなってしまうような状況のことで、基本的には外製化を行っている取引先との関係性で生まれてくるものです。

しかしながら、あまりに内製化を進めてしまうと、「使いづらくても多くの投資をしたことで、投資回収の観点からも内製化した物を使わざるを得ない」というグループ企業内でのある種のホールドアップ問題が出てきます。このことは経済学で言うところのサンクコスト(回収ができなくなった投資費用)問題とも言われ、意思決定に大きな影響を与える傾向にあります。

2つめは、市場のリスクを自らが負うことがあげられます。外製化していれば、仮に川上の資源のマーケットで混乱が起きてうまく調達ができなかったとしても、自社への影響は調達領域だけに留まります。

しかし、資源ビジネスを行っているような総合商社では、資源市場にクラッシュが起きるとその分の損失を直接被ることになります。特に長期契約により資源を安定的に取引先に供給することが義務付けられている場合、資源を調達できないと、契約によっては金銭などで補填しなければいけない可能性もあります。つまり、内製化した場合には、ダウンサイドのリスクを多く負うことになり得るということです。

このようにサプライチェーンをすべて企業内に内製化をしたとしても、当然ビジネスモデルやサプライチェーンの課題が解決されるわけではありません。不確実性が増す時代において、自社の強みを活かして利益を得るためにサプライチェーンのどの部分を外製化・内製化した方が良いのか。それは、競争環境と自社のとる戦略によって大きく変わってきます。

今回は総合商社を例にあげて考えてきましたが、他の企業をサプライチェーンの観点からビジネスモデルを分析すれば、自社が強化すべきポイントが見えてくるかもしれません。自社の戦略を考える際には、他社のサプライチェーンにも目を向けてみてはいかがでしょうか。

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