クロネコヤマトが「空の輸送モード」の実現へ―― ベル社との共創で生み出す、次世代の物流

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クロネコヤマトが「空の輸送モード」の実現へ―― ベル社との共創で生み出す、次世代の物流

取材・文:小村トリコ(POWER NEWS)、写真:渡邊大智

宅配便の国内最大手、ヤマト運輸を傘下に持つ「ヤマトホールディングス」。1976年に「宅急便」サービスを開始し、物流に革命を起こした同社が、これまでの物流とはまったく違う「空」の領域において新たなイノベーションを起こそうとしている。アメリカの大手航空機メーカーであるベル社と手を組んで進めている「eVTOLプロジェクト」とは何なのか。今回のプロジェクトを統括する社長室デジタルイノベーション担当の伊藤佑(いとうゆう)チーフR&Dスペシャリストに、取り組み内容と、同社が見据える物流の未来について語ってもらった。

「空の輸送モード」を実現し物流業界に変革を

――今回御社が発表したプロジェクトについて教えて下さい。

伊藤:一言でいえば大きな無人ドローンに複数の荷物を積み込み、目的地まで運ぶ仕組みを作るプロジェクトです。社内では「eVTOL(イーブイトール)プロジェクト」と呼んでいます。「eVTOL」とは電動(electric)かつ垂直離着陸(VTOL:Vertical Take-Off and Landing)の機能を持つ小型の航空機の名称です。世間で言われている小型のドローンと一般的な航空機の中間にあたる機体と言われており、ドローンよりも大きな荷物が複数個運べることや、ヘリコプターよりも短い距離を静かで安全に飛ばせることなどが特徴です。このプロジェクトでは、空の新たな輸送モードの仕組みを2020年代前半までに商用化することを目指しています。

ベル社と共同で行われた実証実験での新型eVTOL「APT70」

ベル社と共同で行われた実証実験での新型eVTOL「APT70」

伊藤:今回はベル社との共同開発という進め方をしており、空を飛ぶ部分に関してはベル社が、地上に降りてからの輸送に関する部分はヤマトが、それぞれ担当しています。

――なぜ宅急便などを手掛ける御社が空の輸送モードに挑戦することになったのでしょうか。

伊藤:一つにはお客様の「荷物をもっと早く届けてほしい」という声に答えるためです。私たちヤマトホールディングス(以下、ヤマト)のサービスの根本にあるのは「新しい輸送の仕組みによって、お客様のニーズに応え、豊かな社会の実現に貢献したい」という思いです。

宅急便も「より便利に、簡単に、荷物を早く届けてほしい」という声をかなえるために生まれました。今では当たり前のサービスになりましたが、40年ほど前は、宅急便という個人が簡単に荷物を送れる小口輸送サービスは、かつてない利便性を備えた画期的なシステムであったと言えます。

ヤマトホールディングス株式会社 社長室 デジタルイノベーション担当 チーフR&Dスペシャリスト伊藤佑氏

ヤマトホールディングス株式会社 社長室 デジタルイノベーション担当 チーフR&Dスペシャリスト伊藤佑氏

伊藤:しかし現在の情報化社会においては、インターネットの普及が進み、人々は「データがあっという間に届く便利さ」に慣れています。情報が手に入るまでの時間に比べると、物が運ばれてくる時間は長く感じます。現在主流であるトラックによる輸送は、一度たくさんの荷物を物流拠点に集めてから、それぞれの目的地の最寄りにある配送拠点に、そしてそこから最終目的地に運ぶため、どうしても到着までのリードタイムが長く、また1日に運行可能な便数も限られています。

とはいえ、陸路による輸送システムはすでに完成度は高いです。もっと早くお客さまの荷物を届けるにはどうすればよいか検討した結果、「空」に着目したわけです。

また、私たちヤマトは、2019年で創業100周年を迎え、新たな大きなイノベーションを起こしたいという意識が高まっていました。そういう意味でも、新たな可能性を秘めた空路に挑戦することになりました。

ベル社との共創によって物流業界に新たなイノベーションを起こす

――ベル社との共同開発ということですが、今回のプロジェクトでは具体的にどの部分を開発されたのでしょうか。

伊藤:ベル社は新型eVTOLである「APT70」を開発しました。最大積載量は70ポンド(約32kg)、時速160kmで約40kmの距離を充電なしで飛行できます。積載量の32kgというのは、現行のトラックと比べるとずいぶんと小さい数字にも見えますが、ヤマトの宅急便における荷物は1口につき最大25kgです。重さに限って言えば宅急便に相当する荷物を最低でも1個以上運べるということであり、まずはスタートポイントとして設定しました。

ヤマトホールディングス株式会社 社長室 デジタルイノベーション担当 チーフR&Dスペシャリスト伊藤佑氏

伊藤:今後、お客さまのニーズや積載効率向上のためにサイズアップをしていく可能性はありますが、他方でユニットを大きくしすぎると荷物を満載にするために機体を地上に駐機させる時間が増えてしまい、せっかく空を飛ぶことで得たスピードが相殺されてしまう矛盾が生じます。逆に、このプロジェクトの主眼は運航多頻度性と作業効率性というトレードオフを最適化し、既存の物流では提供できないスピードを手ごろなコストで実現することだと言えます。今後、実際の利用シーンを想定した実験を重ねて、最適なバランスをどこで取るべきか探っていく予定です。

――御社が担当された「輸送に関する部分」とは何でしょうか。

伊藤:私たちヤマトが開発したのは、eVTOLに接合して荷物を空輸できる貨物ポッド「PUPA」(ピューパ、Pod Unit for Parcel Air-transportation)です。大きな特徴は「変形機構」で、地上での輸送に適した「台車モード」と、空力的な特性に合わせた「飛行モード」の2つのモードがあります。

PUPAは英語で「サナギ」を意味します。つまり、地上を動くイモムシと、空を飛ぶチョウの中間です。陸路と空路の輸送をつなぐ存在としての意味を込めています。

伊藤:一連の使い方としては、地上では「台車モード」の状態にし、ポッド上部のフタを開け、人の手によってポッド内部に荷物を入れます。台車をAPT70の中央部まで動かし、機体に接合して「飛行モード」にモードチェンジさせます。空を飛んで荷物を運び、到着地でふたたび機体から外して「台車モード」にチェンジ。そのまま配達員が台車を押して荷物を目的地まで届けるという仕組みです。

――現在の開発の進捗について教えて下さい。

伊藤:昨年8月、ベル社と共同でAPT70の飛行実験とPUPAの地上デモンストレーションを行いました。強めの風が吹く中でしたが、ベル社はAPT70の4分間のデモフライトを見事成功させ、ヤマトもPUPAの機能に関するデモンストレーションを実施しました。ひとまずこれで飛ぶこと、そして地上でのオペレーションを行えることが証明されたので、最初のステップはクリアしたと言えます。ベル社と弊社はそれぞれ「空」と「地上」に関してはこれまで培った豊富なノウハウがありますので、それらを持ち寄って組み合わせることで真にイノベーティブなシステムを共創できると考えています。

2019年8月にベル社と共同で行われた飛行実験でのAPT70

2019年8月にベル社と共同で行われた飛行実験でのAPT70

伊藤:しかし、まだ開発段階で、APT70とPUPAが合体して実際に飛行することまでは実現できていないです。次の段階では、実際にPUPAを搭載したAPT70を飛行させ、より実用段階に近い状態に近づけます。

都市のビルを繋ぐ新たな物流網を築く

――本プロジェクトが実際に商用化まで進んだ場合、物流業界ではどのように活用されていく予定でしょうか。

伊藤:たとえばドローンを配達の最終工程である「ラストワンマイル」に活用することが検討されているという話をよく聞きますが、私たちはPUPAやeVTOLをラストワンマイルに使うつもりはありません。 ヤマトをご利用いただいているお客様を考えれば、対面で届けることの意味は、非常に大きいと思います。そこで、私たちは現在開発中のeVTOLを、配達員が企業からお預かりした荷物を積み込み、到着地で別の配達員が降ろしてお客様に手渡しをするという、トラックの補完性を持った拠点間の輸送手段の一つとして考えています。そのため私たちはこれを「空飛ぶトラック」と呼んでいます。

ヤマトホールディングス株式会社 社長室 デジタルイノベーション担当 チーフR&Dスペシャリスト伊藤佑氏

伊藤:たとえば高層ビルの屋上にあるヘリポートにeVTOLを飛ばして、そのビルの中のテナントや入居企業に配達員が荷物を配達したり集荷したりすることもあれば、時にはビル同士をまたいで荷物を運ぶこともあるかもしれません。これまでのように物流拠点から営業拠点を介して荷物の仕分けをするのではなく、物流拠点においてPUPA単位で仕分けをすることができれば、配送のリードタイムは大幅に削減できます。つまり、まったく新しい物流ネットワークを構築するということです。

「台車モード」でのPUPA稼働イメージ

「台車モード」でのPUPA稼働イメージ

伊藤:ターゲットとして、まずは「早く荷物を届けてほしい」というニーズが集中する都市部での運用を考えています。しかし、仕組みが完成して動き出せば、ゆくゆくは住宅街や、過疎化などによる物流危機が叫ばれる地方などでも使える汎用性の高いサービスになる可能性もあります。

――このサービスを利用するユーザーにとって、一番のメリットは何でしょうか。

伊藤:最も大きな変化は「時間に縛られずに荷物を送れる」ことだと考えています。現状のトラックを使った配送では、1日の集荷の締め切りを設定せざるを得ず、たとえば「荷物を17時以降に出した場合、翌日発送の扱いになってしまう」ということが発生します。

それがeVTOLを使った物流システムであれば、先に述べた運航多頻度性によって「何時に出しても、そこから○時間以内には必ず到着する」というようなサービスレベルの実現が可能になるでしょう。これは、単に荷物が早く届くようになるだけでなく、荷主様がタイミングを気にせず、好きな時に荷物を出せるようになるという新たな利便性を提供することでもあります。

ラストワンマイルは人の接客力で勝負する

――今後の実用化にあたって、クリアすべき課題は何ですか。

伊藤:ミッションは山のようにありますが、その一つはPUPAの仕組みに航空機系の認証をとることです。PUPAのように離着陸のたびに航空機から着脱するユニットというのは、民間機ではあまり例がありません。航空機を所有していないヤマトが航空機のユニットを開発、認証に取り組んでいくのは未知のチャレンジとも言えます。

また、eVTOLを活用したサービスの顧客体験は、既存の物流と異なるので、顧客インターフェースの新規開発も欠かせません。たとえば、速達性が重視されるサービスであることを考えれば、天気や航空交通状況を予測してオーダーに先だってお客様に細かい到着時間をお伝えするシステムの構築なども必要になります。

ヤマトホールディングス株式会社 社長室 デジタルイノベーション担当 チーフR&Dスペシャリスト伊藤佑氏

伊藤:しかし、技術的な課題よりもさらに難しいのは、サービス設計です。eVTOLは、基本的にはトラックに比べて当然運航コストが高くなるだろうと想定しています。新たに得られる利便性に対してどの程度の対価をお客様にお支払いいただけるのか、そしてその限られたコストはどのようにして実現可能なのかという検討が本プロジェクトにおいて最も難しく、しかし重要なポイントであると考えています。 今はやっとAPT70とPUPAという「パズルのピース」が2つ揃ったところで、これからこのパズルをどんな風に組んでいくのか、という段階です。しかし、何もなかった状態から1年でここまで来たわけですから、大変な進歩です。2020年代前半の商用化も夢ではないと考えています。

――空飛ぶトラックが実現すれば、物流業界にどのような変化が起こるでしょうか。

伊藤:ヤマト運輸のセールスドライバーは、お客様からサービス品質、すなわちお客様と対面する社員の接客クオリティの高さにおいて非常に高い評価をいただいています。eVTOLを活用することで、たとえば都市部において配達員がトラックの運転をする必要がなくなれば、接客に今よりも多くのリソースを割けるようになり、よりサービスのクオリティを高めることにつながるかもしれません。それが結果的に、「物流」そのものの価値を上げることになるでしょう。

今回のプロジェクトでは、私たちは必ずしもヤマト専用の機体を作っているつもりはありません。他の物流企業にもこの仕組みをどんどん取り入れてもらって、いずれは「空飛ぶトラック」が世界的なスタンダードになる時代が来ることを願っています。当たり前のように荷物が安全に空を飛び、お客様がより快適に荷物を送れて、受け取れる世の中にすることが、豊かな社会の実現に貢献するヤマトのミッションだと考えています。

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