ソフトウェアで製造業の挑戦を支える「オートデスク」が示す、人とコンピューターが協働するものづくり

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ソフトウェアで製造業の挑戦を支える「オートデスク」が示す、人とコンピューターが協働するものづくり

取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:井上秀兵

デジタル革命により大きく揺れ動く、世界の製造業界。その第一線で製造企業を支えているのが、アメリカのソフトウェア大手「オートデスク」だ。機械学習、クラウドコンピューティングなどの最新テクノロジーを活用した設計用ソフトウェアを開発し、3Dプリンティングによって製造方法そのものを大きく変えようとしている。新しいテクノロジーが次々登場する製造業で、日本企業が競争力を維持するためには何が必要なのか。加藤久喜・技術営業本部長に意見を伺った。

イノベーションが起きる時代に必要とされる製造業向けソフトウェア

——御社の業務内容について教えてください。

加藤:1982年に創業したアメリカの企業です。コンピューターにより設計する「AutoCAD」を世に出して、汎用CADとして広めました。近年は“作るために役立つ”ソフトであるCADに留まらず、“作り方を提案する”シミュレーション解析のソフトや、3Dプリンティング ソフトの開発にも力を入れています。それ以外にも製造や建築、土木、メディア&エンターテインメント向けなど、さまざまなソフトウェアを製品として提供しています。

オートデスク 加藤久喜・技術営業本部長

オートデスク 加藤久喜・技術営業本部長

弊社のソフトウェアは世界中でご利用いただいており、2019年度のサブスクリプション数は400万以上、学生などを対象とした無償のユーザー数が6億8千万人と、コミュニティが大きいのが特徴です。

——いま製造業にどのような変化が起こっていると思われますか。その変化をどう見据え、ソリューションを開発し、提供されていますか。

加藤:IoTやAI、3Dプリンティングなどの技術革新により、これまでとは異なる方法でモノの設計や製造方法が考えられるようになったと感じています。なかでも大きな変化は2つあります。1つ目が3Dデータを元に、粉体材料を1層ずつ積み上げて造形する「アディティブ・マニュファクチャリング」、いわゆる3Dプリンティングです。2つ目は人工知能が素材や製造方法などに基づき、設計図を提案する「ジェネレーティブ デザイン」です。

こうした新しい技術が生まれる時代にビジネスを成功させるための具体的なサポートを、我々は既に始めています。代表的なソリューションは、3Dプリンティングの設計や造形準備、シミュレーションを行うソフトウェア「Autodesk Netfabb 2020」。ジェネレーティブ デザインを実現し、3D CAD/CAM/CAEに対応したソフトウェア「Autodesk Fusion 360」です。

3Dプリンティング、機械学習の活用でものづくりを変える

——Autodesk Netfabb 2020、Autodesk Fusion 360とはどのようなソリューションですか。

加藤:切削や鋳造などの従来の加工技術は、作れる形状に大きな制限がありました。例えば、プラスチック成形だと金型から成形品を取り出す工程があるために、成形品の面に傾斜をつけなくてはならない。そのような制限をなくしてくれる技術が、アディティブ・マニュファクチャリング(3Dプリンティング)で、どのような形状のモノでも自在に作ることができます。

3Dプリンティングで作られた自転車のパーツ

3Dプリンティングで作られた自転車のパーツ。必要な強度を維持しながら、接合面の拡大化と軽量化に成功した

そうした新しい加工技術である3Dプリンティングの長所を最大に引き出すため、ソフトウェアの展開を行いました。2015年にFIT Technology Groupから買収したNetfabbを自社製品としてアップデートし、2016年6月にAutodesk Netfabb 2017をリリースしました。

これは設計から製造まで、3Dプリンティングの全工程をカバーするソフトウェアです。設計図である3Dデータを解析してエラーを修復する機能や、軽量化などデザインを最適化する機能、3Dデータが実際に出力できるものかどうか、造形のプロセスをシミュレーションする機能などが搭載されています。

最新版のAutodesk Netfabb 2020では、製造工程が合理化され、造形エラーも減らすことできます。そのため、製品の市場投入までの時間が短縮され、製造コストの削減にもつながります。3Dプリンティングは、完成品を仕上げるまでに10回程度の試作を要するケースが多く、材料費など多額の費用がかかることも珍しくありません。それがAutodesk Netfabb 2020の導入により、試作回数は3回にまで減り、開発費が半分以下に抑えられたという例もあります。

オートデスク 加藤久喜・技術営業本部長

もう1つのジェネレーティブ デザインを実現するAutodesk Fusion 360も、生産性や製品価値を高めるのに役立つソリューションです。ジェネレーティブ デザインとは、機械学習やクラウドコンピューティングを使った設計の方法です。

作りたいモノの機能や材料、製造方法、コストの制約などの諸条件を入力すると、可能性のある複数の設計案が自動で生成されます。同時に、各デザインの質量、安全性が数値化されるので、合わせて製造時間を比較検討して最適な設計を選ぶことで、製品の軽量化やパフォーマンスの向上が実現されます。

要するにジェネレーティブ デザインとは、人がコンピューターとコラボレートして、幾通りものデザインを短時間で生み出し、そこからニーズに対してその時の最適な設計を選択する手法なのです。これは、設計者の考えをCADなどでデータ化する従来の設計とは、大きく異なると言えるでしょう。

——アディティブ・マニュファクチャリングやジェネレーティブ デザインは、実際どのように活用されていますか。

加藤:3Dプリンティングは、どのような形状のモノでも作れて、デザインにおける制約が少ないのが特徴です。そのため、柔軟に幾通りものデザイン案を生成できるジェネレーティブ デザインと非常に相性がよく、両者を組み合わせた活用事例も多いです。

例えば、2018年5月、次世代車両の軽量化を実現するため、アメリカの自動車メーカー「ゼネラルモーターズ(GM)」は弊社と技術提携を結びました。これまで行った概念実証プロジェクトにおいて、アディティブ・マニュファクチャリングとジェネレーティブ デザインを用い、シート ブラケットと呼ばれるシートベルトのバックルをシートや、床に固定する部品の設計を見直しました。その結果、従来のブラケットと比べ、40%の軽量化と20%の強度向上に成功。さらに8つに分かれていた部品をひとつに統合することで、異なるサプライヤーが製造する複数の部品やそれらの組み立てなどのサプライチェーンに関するコストを削減することもできるようになりました。

国内でも事例があります。「日本の自動車部品メーカー『デンソー』が、農建機向けの小型ディーゼルエンジンに搭載する新たなエンジンパーツ、ECU(Engine Control Unit)の開発において、さらなる軽量化を図るためにジェネレーティブ デザインを採用し、より先進的なコンセプトモデルを作成しました。要件を満たしつつ、従来品と比べて12%の軽量化に成功しています。このコンセプトモデルは、2019年に世界的に権威のある『iFデザイン賞』を受賞しました」。

欧米に遅れをとる日本のデータ利活用と、その打開策

——御社のソフトウェアは世界中の多くの企業、ユーザーに利用されています。世界と日本の製造業の違いや、日本の製造業の課題について、製品の提供を通じて気づいたことがあればお聞かせください。

加藤:日本は欧米に比べて、データ化が遅れているように感じられます。欧米はマニュアル文化です。マニュアルを作るためには、暗黙知を形式知に、つまり個人的な知識や技術を言語化、データ化する必要があるため、かねてよりデータ化に力を入れてきたのです。

一方の日本は職人文化なので、暗黙知は暗黙知のまま、見よう見まねで経験を積むやり方で技能が伝承されてきました。そのため、あまりデータが重要視されず、結果、データ化が進んでこなかったのでしょう。

近年はIoT、AIなどデジタル技術の革新により、データ利活用の幅が広がっています。特に欧米では、データを使い生産性を上げるための新しい仕組み作りが進んでいますが、日本は一歩遅れているのです。

オートデスク 加藤久喜・技術営業本部長

生産性の向上は日本の製造業にとって課題です。デジタル革命の波に乗り遅れ、国際競争力を失わないためにも、データ化を急速に進めるべきだと思います。

世界と比較すると、日本は高度成長期に築き上げられた製造ノウハウが固定されていて、なかなか新しいことにチャレンジできていないように見受けられます。こうした課題を乗り越えるためにも、3Dプリンティングのような新しい技術や弊社のソフトを活用して、生産性や製品価値の向上に役立ててもらえればと願っています。

——今後はどのようなソリューションを開発していく予定ですか。

加藤:いま特に注力しているのが、特定の業界のためのものだった技術を、他業界へ応用する取り組みです。弊社は、主に製造、建設、メディア&エンターテインメントの3つの業界に向けたソリューションを開発しているのですが、製造業のソリューションを建設業界に応用したり、エンターテインメントのソリューションを製造業に応用したりといった取り組みを進めています。

具体的には、製造業や建設業では、もともとエンターテインメント向けに開発した3Dソフトウェアを使い、「3D・ビジュアライゼーション」が利用されています。これを使えば、デザイン案を3Dグラフィックでリアリティ豊かに表現できるので、実際に試作品を作らなくても、グラフィックのみでのデザインの検討が可能になります。

これは一例で、製造業の発展の力になれるよう、日々さまざまなソリューションの開発に努めています。現在は製造業が大きく変容している時代です。製造テクノロジーのトレンドをカバーしたソリューションの提供を通じて、日本の製造現場に力を与えられる企業でありたいと思っています。

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