BtoGで独自の進化を遂げる中国の5G革命――現代中国・イノベーションの最前線

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BtoGで独自の進化を遂げる中国の5G革命――現代中国・イノベーションの最前線

文・写真:高口康太

世界を席巻しつつある、中国発の「ライブコマース」

チャイナ・イノベーションは今、転換点を迎えつつある。

近年、注目を集めているのが中国発のイノベーションだ。スマートフォンさえあれば、他に初期投資がほぼ不要のQRコード決済は今や世界各地に広がりつつある。日本でも2018年から普及が本格化し、PayPay、LINE Pay、楽天ペイ、メルペイなど無数のサービスが林立している。

動画配信とネットショップが融合したライブコマースも中国が元祖とされている。テレビ通販のネット版のようなものだが、配信者が視聴者のコメントに返答するなどインタラクティブ性に富んでいるほか、チャンネル数の制限がないという違いも大きい。

世界を席巻しつつある、中国発の「ライブコマース」

Getty Images

2019年11月11日に開催された世界最大のネットショッピングセール「双十一」(ダブルイレブン)で、アリババグループのECプラットフォーム「Tモール」「タオバオ」ではライブコマースで200億元(約3108億円)近い売り上げを記録したという。ライブコマースのプラットフォームのなかには配信者ごとに多数のチャンネルが存在しているが、そのうち10チャンネル以上で売り上げ1億元という大台を超えている。

また、アリババ傘下のラザダはタイ市場でもライブコマースを実施しているほか、中国から海外への輸出を手がけるアリエキスプレスはロシア語など6カ国の言語で放送を行うなど、中国国外にもサービスは広がりつつある。いや、アリババだけではない。今や中国のEC企業にとってライブコマースは一般的なサービスとなっている。日本でも人気のショートムービーアプリのTikTokは中国版ではライブコマースを実装しているが、まもなく国際版にも導入されると噂されている。さらにはGoogle傘下のYouTubeも物販機能を導入するなど、ライブコマースはチャイナ・イノベーションの代表例として世界に広がりつつある。

チャイナ・イノベーションの転換点は2014年前後にあった?

「経済力や軍事力はあっても、1人当たりGDPや技術力はまだまだ途上国レベル」。中国に対してはそうした見方を取る人が多かったが、気づけば世界が注目するイノベーションを生み出す国に変わっている。

筆者がその転換点と考えているのは、2014年前後に始まった4G通信だ。モバイル決済やライブコマース、あるいは他のチャイナ・イノベーションと言われているサービスは、ほとんどが4G通信を背景にしたものだ。中国企業が他国に先駆けて4Gビジネスを成功させた理由はどこにあるのか? 天才たちがいち早く未来のビジネスモデルを発見したから……ではない。

現在、5G通信が始まりつつあるが、「これだけ高性能の通信技術をどう使えばいいのか?」という疑問に対する答えはでていない。実は4G通信の普及時にも同じ課題があった。「これだけの高速回線をどう使えばいいのか? 4Gは不要なのではないか」というわけだ。

4Gの能力をいかに引き出し、ビジネスにするか。中国政府の創業支援策、そして規制緩和によってベンチャーキャピタルに多額の資金が注入されたことによって、多数のスタートアップが出現し、さまざまなビジネスを展開した。こうして「既存のサービスに通信をぶちこんだら何ができるのか」と、思いつくアイデアを手当り次第に組み合わせて試した結果がチャイナ・イノベーションというわけだ。

もちろん失敗も多い。「公園で遊ぶバスケットボールをスマホ経由でレンタルできるようにしよう」というシェア・バスケットボール、「羊の丸焼きホームパーティーの食材とシェフをスマホから注文」するシェア丸焼き、「スマホのセルフィーライトを通信対応にして色を変えられる」ガジェットといったあたりが鳴かず飛ばずだったサービスの代表格だろうか。1つ1つを見れば笑ってしまうようなサービスだが、全体を見れば「失敗は成功の母」という言葉を愚直に守って前進している。こうして4G通信をバックボーンとした、多様なBtoCサービスが生み出された。これが中国の強みであり、今騒がれているチャイナ・イノベーションというわけだ。

チャイナ・イノベーションの転換点は2014年前後にあった?

Getty Images

では来たる5G時代はどのようになるのだろうか? やはりアイデアの試行回数を増やすことで多数の失敗とごく少数のエクセレントなサービスを生み出していくのだろうか? どうやらまったく違う光景が展開されそうだ。

5G革命の震源地はBtoBビジネス?

筆者は先日、世界初の5GスマートフォンメーカーであるOPPOの呉強(アレン・ウー)副総裁を取材した。11月1日から中国では5G通信が正式スタートしたが、同氏は5Gのスマートフォン、すなわちコンシューマー市場への普及には時間がかかるとの見方を示している。

問題は2つ。第一に5Gの人口カバー率が向上するには時間がかかること。4Gでは1年余りで普及したが、それは3大通信キャリアの1つ、チャイナモバイルが異常なペースで投資したことに由来する。それというのも同社は国策によってTD-SCDMAという中国独自の3G通信規格を押し付けられていたため、不利な状況を脱するために4G移行を急いだのだ。5Gでは慌てる理由がないため、現在のキャリア各社の計画では2020年末時点でも都市部中心地をカバーするのがやっとというレベルだ。

第二にキラーアプリが見いだせないこと。今の消費者向けニーズは4Gで満たされており、5Gならではのサービスを開発する動きは鈍い。他の関係者に取材しても、5G導入ですぐに新たな消費者向けビジネスが出てくるとの見方には否定的だった。通信料が劇的に下がるなどの変化が起きるまでは、手当り次第にアイデアを試すような摸索は起きなさそうだ。

むしろ5G革命の最初の震源地となるのはBtoBではないか。そうした声が強い。「インダストリー4.0」「ソサイエティ5.0」、あるいは「中国製造2025」など、新たな技術を使って既存の製造業や社会システムの刷新を目指す国家プロジェクトは世界的に広がっている。「AI(人工知能)+IoT(モノのインターネット)」、あるいは「AIoT」という言葉を見かける機会が増え、IoTによって取得したビッグデータをAIが処理することによって、これまでにはないさまざまなサービスを生み出せるとの期待が高まっている。

5G革命の震源地はBtoBビジネス?

Getty Images

そして、この「AI+IoT」の能力を飛躍的に向上させるテクノロジーとして期待されているのが「8K+5G」だ。より情報量の多い画像を撮影、送信することができれば、さらにハイレベルなAIソリューションが可能となる。

「まずはBtoB」というトレンドは中国だけではなく、世界各国で共通している。画像認識による検品を行うスマートファクトリー、画像認識による棚卸しやレジ決済などのスマート小売り、遠隔地の患者を治療するスマート医療などがその代表格だ。

政府主導で独自の進化を遂げる中国のスマートシティ

中国が他国と異なるのは巨大な官需、つまりBtoG(business to government)のビジネスが存在する点だ。都市部にAI監視カメラを張り巡らせる天網プロジェクト、郊外や農村にまでAI監視カメラ網を広げる雪亮プロジェクトが国家政策として推進されている。米調査会社IDCの報告書によると、電力システム、監視カメラ、交通システム、都市運営システムなどスマートシティに関するテクノロジー投資は2018年には200億5300万ドルに達したが、2023年には389億ドルと、5年でほぼ倍増する勢いで成長する見通しだ。

政府主導で独自の進化を遂げる中国のスマートシティ

政府主導で独自の進化を遂げる中国のスマートシティ

それだけではない。企業オフィス、工場、鉱山、学校、さらには住民が生活する団地までスマート・ソリューションを導入することが求められている。筆者は2019年10月28日から31日にかけて、広東省深圳市で開催された中国公共安全エキスポを訪問した。街中の監視カメラを活用して、ターゲットの人物がどのような経路で移動してきたのかを可視化するソリューション、1台の8Kカメラによって広範囲を監視するソリューション、道路の一定区間に何台の車がいるかAIが算出して渋滞状況をリアルタイムで測定するソリューションなど、多数のスマートシティ関連のサービスが展示されていた。

中国公共安全エキスポでのファーウェイ社の展示。ターゲットの移動経路を地図上にわかりやすくマッピングする

中国公共安全エキスポでのファーウェイ社の展示。ターゲットの移動経路を地図上にわかりやすくマッピングする

そのほか、団地内の不審者発見、高層階からの落下物検知、入口での車や人物の出入り確認などをすべてAIによる画像認識、顔認識で行うスマート社区ソリューションが多数展示されていた。政府の支出だけではなく、政府の奨励によって民間が導入する「AI+IoT」ソリューションの投資額は膨大だ。今後はここに「8K+5G」が続々と組み込まれていくことになる。

中国公共安全エキスポでのIntellifusion社の展示。スマート団地のソリューション。ターゲットが誰と行動をともにしていたのかという頻度から人間関係マップを作成

中国公共安全エキスポでのIntellifusion社の展示。スマート団地のソリューション。ターゲットが誰と行動をともにしていたのかという頻度から人間関係マップを作成

現時点でも中国大都市部のスマートシティはかなり整備されつつある。先日、筆者が浙江省杭州市で配車アプリを使った際には、運転手が「面倒なことになりました」ともらしていた。注文を受注するためにスマホをちょっと触っただけで監視カメラにとらえられ、警官が飛んできたのだという。なお、運転中のスマホ操作は中国の法律で禁止されている。

「1回目なので警告で済みましたが、次回からは罰金200元に交通違反切符2点です」とこぼしていた。ドライバーがスマホを手に取ったかどうかまでAIが自動的にチェックできるようになっているわけだが、「8K+5G」が導入されればさらに精度の高い判断が可能になるという。

4Gで世界をリードするチャイナ・イノベーションを生み出した中国だが、5G時代のBtoBソリューションでも独自のモデルを形成しそうだ。

高口康太

高口康太

フリージャーナリスト、翻訳家

フリージャーナリスト、翻訳家。1976年、千葉県生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。二度の中国留学経験を持つ。中国をメインフィールドに、多数の雑誌・ウェブメディアに、政治・経済・社会・文化など幅広い分野で寄稿している。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、など。

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