小規模ビジネスの繁栄か、プラットフォーマーの独占か?IoT革命の行き着く先――東京工業大学・出口弘教授インタビュー

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取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:篠田勇

IT革命に次ぐIoT革命で、油断しているとプラットフォーム企業に中小製造業は駆逐されてしまう――。東京工業大学情報理工学院の出口弘教授はそう警鐘を鳴らす。プラットフォームが巨大化するメカニズムや、中小企業の工場をプラットフォーム企業が独占し得る理由、そして、それを防ぐ方策について出口教授に話を聞いた。

出口弘

出口弘

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 教授

1955年生まれ、東京都出身。東京工業大学大学院総合理工学研究科システム専攻博士後期課程修了。福島大学経済学部助手、国際大学グローバルコミュニケーションセンター助教授、中央大学商学部助教授、京都大学大学院経済学研究科助教授を経て、現在は東京工業大学情報理工学院情報工学系教授。専攻は社会シミュレーション、エージェントベースモデリング、進化経済学など文理融合型の学際分野。

プラットフォーム企業による独占・寡占がBtoB領域にまで拡大

――出口教授はIoTプラットフォームの研究開発をされています。製造業のこれからについて、どのような問題意識、あるいはビジョンをお持ちですか。

出口:まず前提を整理しましょう。そもそもIoTとは、あらゆるモノをインターネット経由で相互に繋げて情報交換を可能にする仕組みのことで、これが今後、製造業に大きな変化をもたらすと考えています。なぜなら、工場には工作機械や測定装置などモノが集中しており、IoT化の影響を受けやすいからです。IoT革命は今まさに進行中ですが、製造業における変革のシナリオは2つ想定されます。

1つは、“生産管理やサプライチェーンのための巨大なプラットフォーム型ビジネス“に中小製造業が支配され、工場の利益配分の低い製品がより大量に生産される流れ。もう1つは、分散的なオープンプラットフォームの下で中小製造業や中小のサービスプロバイダーが独自の発展を続け、多様な価値を次々に生み出すことが可能となる流れです。

IoEのグラフ

IoTは、場所や人だけでなく、CPUを内蔵する「もの」がインターネット上で相互に接続することで、大きな影響を世界市場に与えると言われている(出典:シスコ)

ここでいうプラットフォームとは、ものづくりを含むさまざまなサービスを遂行する上で基礎となる上位のサービス部分のことです。商取引や情報配信などのビジネスを行うための基盤のサービスもプラットフォームと見なせます。

例えば流通領域でのB2Cプラットフォームの典型がAmazonや楽天です。ネット通販のプラットフォームは、個々の販売業者が利用可能なネット通販のための基盤のサービスを提供し、自社による商品販売に加え、膨大な出店者を集い販売してもらうことで豊富な品揃えを実現しています。これは「ネット通販プラットフォーム」とも呼ばれ、プラットフォーム型のビジネスモデルの代表格です。

このようなプラットフォーム型のビジネスは、インターネットによって、特に社会に対して絶大な影響力を持つようになりました。というのも、プラットフォームは、「ロックイン」と呼ばれる強力な寡占や独占を起こしやすいという性質を持つからです。

Amazonの例だと、Amazonが顧客に人気になると、顧客が集まるAmazonに販売業者も集まるようになり、品揃えや顧客データに基づくレコメンデーションなどAmazonのサービスはより充実し、さらに顧客の人気を集め、それが販売業者を惹きつけ……というように、あっという間に巨大化しました。このように一部の企業やプラットフォームが市場を独占し、販売者が別のプラットフォームに切り替えることが困難になるだけでなく、新たなプラットフォームへの参入そのものが困難になる状態こそがロックインです。

ロックインは、新しいプラットフォームサービスの市場への参入を困難にし、製品やサービスの発展の可能性を縮減させるリスクがあるので、問題です。Amazonに代表されるようにロックインはこれまで主にB2C領域で起こってきました。しかし、IoTの普及とともに、製造業を含めたB2B領域にも、今後、生産管理やサプライチェーンの巨大なプラットフォームが成長し、そのロックインが生じる可能性があると考えており、危機感を抱いています。

出口弘氏

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 教授・出口弘氏

インダストリー4.0は製造業に巨大プラットフォームを築き上げるのか

――IoTの普及で、なぜ製造業などBtoB領域でもロックインが起こるのですか。

出口:実は、BtoB領域でのロックインは既に起こり始めています。以前は企業の情報システムは、データベースに情報を蓄える自社運営のシステムとして構築されるのが一般的でした。しかし、この方法だとメンテナンスに大きな労力とコストがかかるため、2000年代以降は、業務ごとに分けられたソフトウェアをクラウド上で組み合わせる情報システムが主流になりました。

クラウド上でのシステムの構築は、マイクロソフトの「Azure」やアマゾンの「AWS」という開発プラットフォームで行われることが多く、この流れが、特定のプラットフォームへのBtoB領域でのロックインを加速させているのです。

一方で、IoTによる工場でのデータ収集はまだ始まったばかりなのに、取得されたデータを囲い込み、プラットフォーム型のビジネスにしたいと、多くの組織が狙っている状況です。ドイツの国家プロジェクト「インダストリー4.0」もまさにその一例です。どうも、巨大な情報プラットフォームにさまざまな組織を参加させ、ビジネス展開していくことを構想しているようです。

ものづくりの世界にIoTプラットフォームが築かれるようになると、Amazonと同様の原理で急速に巨大化していくのではないか。そして、さらに問題なのが、巨大なプラットフォームは、製造業、特に中小企業の工場をフランチャイズ化する恐れがあることです。

工場のフランチャイズ化と中産階級崩壊の危機

――工場がフランチャイズ化されるとは、どういうことでしょうか。

出口:取り替え可能な仕組みを組んで儲けるフランチャイズのビジネスモデルは、個々のフランチャイズのチェーン店(フランチャイジー)を取り替え可能なコンポーネントとして設計する「コンポーネントビジネスモデル」の一種とみなされます。これは、フランチャイジーからの情報をもとに、販売する商品の品揃えの最適化を試みるビジネスモデルで、一世を風靡しています。このビジネスモデルの最大の特徴は、フランチャイジーやそこでの労働者を、能力開発を行う必要のない取り替え可能な部品として扱う点です。

フランチャイズのチェーン店の現場にはマニュアル通りの労働があるのみで、基本的には労働者の能力開発は行われません。従って、労働者は独立やのれん分けもできず、同じモノやサービスの生産が続くだけで、新しい価値が生み出されることはありません。

巨大プラットフォームは、これと同じ現象を中小企業の工場に巻き起こす可能性があります。プラットフォーム企業が牛耳り、プラットフォームを利用する工場に指示を出し、工場の現場は付加価値配分の低い形で部品や製品を大量生産させる。要するに、工場の現場はマニュアルを実行するだけのオペレーターとして扱われるわけで、フランチャイズ型のプラットフォームは中小製造業をそのように変えてしまうリスクがあります。

“産業の米”と呼ばれ、広い分野で利用される半導体のような製品は、生産性が高められ、効率的に大量生産されることが重要でしょうが、中小製造業が得意とする多品種小ロットのものづくりでは、生産の現場に高い付加価値配分が可能な製品や部品がさまざまに生み出されることこそが重要です。

フランチャイズ化され、本部からの指示通りに作業をするオペレーターとして扱われてしまうと、チェーン店と同じく、中小企業の工場は、自分たちでものづくりのイニシアチブを取ることのできない、上から定められた製品を作り続けることになる。それではダメなのです。

というのも、トップダウンで本部がデザインしたモノやサービスで社会全体がロックインされると、社会の多様性が縮減するとともに、ごく一部の者に富が集中し、中産階級が崩壊してしまいます。民主主義社会の安定は中産階級により支えられてきたのであり、中産階級の崩壊は、民主主義にとって大きな危機なのです。

出口弘氏

――どうすれば中産階級崩壊の流れを食い止められるでしょうか。

出口:とにかくロックインを防がないといけません。冒頭でお話ししたもう1つのシナリオ、“多様な価値が次々に生み出される社会の実現”を目指すべきであり、それを助ける低コストのIoTシステムが、オープンプラットフォーム上でオープンイノベーションにより多様に開発されることが、まずは重要だと思います。

インターネットによって、この四半世紀、ものすごい勢いでパラダイムシフトが起こりました。それに次ぎ、いまはIoT化による革命の真っただ中で、政治や経済は目まぐるしく変わり、我々はその流れの速さについていけずにいます。製造業においても全体のビジョンが明確でなく、今後10年ぐらいは、さまざまなビジョンが出ては消えを繰り返すことになりそうです。

そうした中、私は社会にとってより良いビジョンを描き、それを実現させためのIoTシステムの研究開発を進めています。具体的には、中小製造業などの小規模ビジネス、小規模で多様なサービスプロジェクトとそのタスク管理などマイクロマネジメントに特化した、人が主役となるIoTシステムの開発です。この構想が実現できれば、現場はIoTを用いて取得したデータを活用してマネジメントと能力開発を行えるようになります。それによって、個人や小さな集団から異なる価値が次々と生まれる環境を作り出せるのではないでしょうか。

 IoT化によるマイクロマネジメント

IoT化によって、企業単位のマネジメントから製品・サービスを形成するマイクロ@うロジェクト単位のマネジメントへの転換が可能となる

多品種小ロットの複雑で高付加価値なものづくりをIoTでマネジメントしていくことで、中小企業の工場は巨大でロックインした生産管理やサプライチェーンのプラットフォーム企業に支配されることなく、独自の発展を続けていけるはずです。ひいては、それが多様な価値が存在する豊かな社会の実現に繋がると考えています。

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