「パレット」は疲弊する物流現場を救う情報インフラとなるか? 日本パレットレンタルの挑戦

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「パレット」は疲弊する物流現場を救う情報インフラとなるか? 日本パレットレンタルの挑戦

取材・文:小村トリコ(POWER NEWS)、写真:篠田勇

製品を載せるための荷役台である「パレット」は、IoT技術との融合によって、新たなステージに突入した。パレットをはじめとした物流容器の貸し出しを行う「日本パレットレンタル株式会社(JPR)」は、「RFIDタグ」を活用して物流の現場を効率化するためのサービスを次々と打ち出している。その背景にあるのは「物流業界の課題をパレットをキーに解決する」という強い思いだ。同社の加納尚美 代表取締役社長に、実現を目指すビジョンについて語ってもらった。

12年間の試行錯誤の末に完成した、パレットに最適なRFIDタグ

――パレット運用のデジタル化はどのようにして始まったのですか。

加納:JPRは2000年ごろから、他社と組んでのRFIDタグの共同研究を進めてきました。私たちはハンディー型のRFID読み取り機を開発して、商品の入出荷時の「検品」にRFIDタグを使うためのシステムの大枠を組み立てました。パレットに付けたRFIDタグを読み取ると、そこに載せられた商品の情報が瞬時にわかるという仕組みです。

例えば、このパレットには何の商品が何個載っていて、その賞味期限はいつなのかといった詳細な情報がデータベースに保存されてサーバーで管理されます。従来はこうした卸業者での検品作業はトラックのドライバーが行っていました。RFIDの活用で、大幅な省力化と時間短縮が期待できました。

しかし2000年ごろ、RFIDタグの単価は12000円を超えていました。サプライチェーン先進国であるアメリカやヨーロッパでも、やっと少しずつ実験的な事例が出てきたくらいで、日本ではまだRFIDはほとんど注目されていませんでした。あくまで私たちの実験的な構想に過ぎなかったのです。

加納尚美氏

日本パレットレンタル株式会社(JPR)代表取締役社長 加納尚美氏

――現在のRFIDタグ活用のベースが、すでに2000年の段階でできていたのですね。次のステップは何だったのでしょうか。

加納:2006年、徐々にRFIDタグの単価が下がり、日本国内でもICタグ活用への関心が高まってきたことで、経済産業省がICタグ開発の補助事業を立ち上げました。そこで私たちも本格的な研究に乗り出しました。

パレット用のRFIDタグの開発を委託したのは、RFIDの世界的なリーディングカンパニーであるアメリカの企業「IMPINJ」です。パレット専用のRFIDタグを開発し、実際に現場に出ているJPRのパレットを使っての実証実験を進めていきました。それから2012年まで、合計およそ50万枚にものぼるRFIDタグを貼ってははがして、試行錯誤を繰り返しながら、ようやくパレットでの使用に最適なRFIDタグが完成したのです。

――パレット向けのRFIDタグと一般的なRFIDタグではどのような違いがあるのですか。

加納:大きく分けて3つのポイントがあります。まずは「タグの耐久性」です。パレットは一度製造すると10年以上は持ちますし、輸送の途中でフォークリフトなどにぶつかって強い衝撃を受けることもあります。長期間使用できる強度の高いRFIDタグが必要でした。JPRのRFIDはチップとアンテナの接続部分に特別な工夫がしてあります。

2つ目は「タグの読み取り方」です。例えば店頭で商品タグに付けられたRFIDや、SuicaなどのICカードに埋め込まれたRFIDは、決まった方向から読み取るという運用です。しかし、パレットはいちいち方向を気にしていると運用効率が著しく低下します。そこで全方向、かつ10メートルほど離れた場所からでも読み取れるアンテナを搭載したRFIDタグを、パレットの中央部に付けて対応しています。

3つ目は「リーダー」です。タグの情報を読み取るリーダーには、以前開発したハンディタイプのほか、最近では新たにフォークリフトのツメがリーダーの役割をすることも可能になりました。ただフォークリフトの場合、運転中にデータを受け取って確認するため、現場環境に耐えられる丈夫で視認性の高いディスプレイが必要です。これにはパナソニックの頑丈なタブレット端末を採用し、まもなく実用が始まるところです。

現在、JPRのプラスチック製パレットの95%程度にこのRFIDタグを貼り付けており、あちこちでデータの利活用が行われている状況です。

Tag Reading Fork システム構成

フォークリフトのツメに載せたRFタグ付きパレットの情報を読み取る「Tag Reading Fork」(提供:パナソニック株式会社)

共同配送システムで明らかになった、物流データの「ぶつ切り」問題

――パレットのRFIDタグを普及させたことで、新たに見えてきた物流の課題はありますか。

加納:パレットの情報をデータ化してわかったのは、現在の日本の物流業界には、サプライチェーン全体をつなぐような包括的なデータ管理のシステムが確立していないということです。

JPRの主要取引先は、食品や日用品などを中心とした生活必需品メーカーであり、国内の名だたるメーカーの多くにJPRのパレットを使っていただいています。その業界で近年目立っているのは、複数の企業の荷物をまとめて一度に運ぶことで物流コストを下げる「共同配送」の取り組みです。各社の商品はまず全国各地にある「共同配送センター」と呼ばれる集配の拠点に集められ、そこから卸業者に送られます。

この仕組みの問題として、物流の中継地点となるセクションが1つ増えたことで、全体の流れがより複雑化して、データを追いかけにくくなることが挙げられます。

加納尚美氏

加納:例えば、卸業者さんがあるメーカーに商品を発注したとき、その商品はメーカーの工場から直接配送されるのか、それともどこかの共同配送センターから届くのかを事前に把握することができません。また本来の荷主であるはずのメーカーにとっても、共同配送センターに送って以降は、自分たちの商品が今どこでどうなっているのかわからなくなってしまうのです。

その理由は、物流のデータはセクションごとに新しく作り直されており、いわば「ぶつ切り」のような状態でデータが存在しているからです。各自が使っているシステムもバラバラで、これをいきなり連携させようとしても非常に難しい。標準化にかかるコストがあまりにも大きいのです。物流の「全体最適」を実現するうえでの課題はここにあると言えます。

――パレットでその問題が解決できるのですか。

加納:こうした状況の中、加工食品業界を中心とした多くの会社において、パレットだけは標準化されており、JPRが提供するパレット管理のクラウドシステムを利用いただいています。なぜならメーカーにとって最も注力すべきは自社の商品に直接関連する部分であり、パレットの管理に独自のシステムを使用してコストをかけるよりも、JPRの共通システムを利用して手間を省いた方が効率的だからです。

つまり、JPRにはパレット情報が標準化された状態で集まってきます。パレット情報とはすなわち、商品の移動情報です。このデータを使って、サプライチェーンを一気通貫で管理するシステムを作れるのではないかということで、現在は新たな取り組みが始まっています。

RFIDタグから得られるデータをクラウド上で管理することで、複数の拠点や企業をまたいでのデータ連携が可能となり、サプライチェーンにおける商品移動情報のプラットフォームが生まれる

RFIDタグから得られるデータをクラウド上で管理することで、複数の拠点や企業をまたいでのデータ連携が可能となり、サプライチェーンにおける商品移動情報のプラットフォームが生まれる

パレットを情報インフラとして活用し、物流の全体最適を

――新たな取り組みとして具体的にはどのようなことをされているのですか。

加納:物流の「全体最適」を段階的に実現するために、いくつかのアプローチから物流の最適化を進めるシステムを構築しています。まず取り組んでいるのは「パレット伝票のペーパーレス化」です。物流の現場では、いまだに紙の伝票を使う機会がとても多い。例えば、ドライバーが卸業者に荷物を運んだ時点でシステムから伝票が発行されて、卸業者はそれを見て印鑑を押して納品が完了します。

JPRのパレット伝票だけでも年間324万回も切られていて、しかも1回につき卸業者、運送会社、メーカー、JPRの管理用と4枚の伝票が出てくるのです。これをウェブ上ですべて完結して、紙伝票を廃止するというシステムを作りました。すでにお客様への導入が始まっています。

また、物流の現場にはパレットを管理するための伝票だけでなく、商品そのものの伝票も存在しています。取引企業からの要望を受けて、商品伝票をペーパーレス化する動きを進めています。

こちらについては今年2019年の夏頃から、本稼働を前提とした実験を行う予定です。あわせて、ハンディタイプのリーダーを通さず、物流拠点のゲートをくぐらせるだけで丸ごとパレットのRFIDを読み込めるシステムの実験も実施します。

商品の伝票をデジタル化するということは、モノの流れがリアルタイムで把握できるということです。物流の現場で、ドライバーがパレットのRFIDタグを読み取ったその瞬間に、何の商品がどこにあってこれからどこに向かおうとしているのか、すべての情報を各セクションが共有することになります。在庫の最適な配置や需要予測など、これまでは困難であった細かな調整も可能になり、各セクションでの最適化が進むでしょう。

――まさにパレットが情報のインフラのような役割を果たして、モノの流れを最適化するということですね。

加納:もう1つ私たちが考えているのは、物流の現場でトラックの動きを管理する「管制塔」のような存在になることです。パレットの動きをリアルタイムで把握することで、トラックの位置情報や状態を記録して管理する「動態管理」が可能になります。

最近、物流拠点でトラックが荷下ろしのために乗り付ける「トラックバース」と呼ばれるスペースでは、トラックの渋滞が問題視されています。物流量の多いところでは、ドライバーが2時間から3時間、ひどい時には12時間も待たされることがあるのです。渋滞を回避するための「バース予約システム」などもあるのですが、拠点によってバラバラのシステムを利用していて、さらにドライバー自らが別々のアプリなどを使って予約作業をしなければなりません。これが、ドライバーの新たな業務負担となっています。

そこで、パレットの情報とトラックの情報をリンクさせて、例えば「何時にどこの滑走路に入ってください」といったドライバーへの指示を自動的に出すことができるようになるのが「管制塔」としての目標です。現在はこの第一歩として、2018年9月にJPRの子会社である「TSUNAGUTE(つなぐて)」を設立し、前身となるバース予約システムの運用を始めています。

TSUNAGUTEの事業領域

TSUNAGUTEの事業領域(提供:株式会社 TSUNAGUTE)

加納:どのアプローチにおいても根本の課題は共通しており、必要なのは「全体最適」を目指す視点です。各セクションと連携をとりながら物流の課題をひとつずつ解決して、その先にある物流業界全体の最適化を目指していく。物流のインフラであるパレットをキーにすれば、それが可能になると考えています。

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