数十社のベンチャー企業との協業連携で物流の可能性を広げる ——寺田倉庫が始めた世界初のサービス「minikura」「minikura+」

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数十社のベンチャー企業との協業連携で物流の可能性を広げる ——寺田倉庫が始めた世界初のサービス「minikura」「minikura+」

取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真: 藤牧徹也

創業69年の歴史を持つ寺田倉庫が生み出した、新たなシェアリングサービスに注目が集まっている。段ボール1箱単位で、誰でもいつでも倉庫を持てる「minikura(ミニクラ)」と、このシステムの一部を他社に提供し、協業で新規事業に乗り出す「minikura+(ミニクラプラス)」だ。両サービス最大の特徴は「個品管理」が行われる点。倉庫業界で確固たる地位を築く同社が、ユニークな新規事業を立ち上げた理由とは。minikuraの生みの親である月森正憲・専務執行役員に、サービスについて、サービスが物流に及ぼす影響について語ってもらった。

箱単位ではなく「個品管理」でユーザーの課題を解決

——「minikura」のサービス内容について教えてください。

月森:minikuraは倉庫をシェアするサービスです。ネットで申し込み、箱に詰めて送るだけで、簡単にモノを倉庫に預けられます。個人の物品を倉庫で預かる「トランクルーム」と似ていますが、大きな違いは、預かったモノを「個品管理」する点です。

寺田倉庫専務執行役員 月森正憲氏

寺田倉庫 専務執行役員 月森正憲氏

月森:料金は1箱月額250円。荷物は箱単位ではなく、中に入っているモノを1点ずつ管理しています。預かった段階で、1点ずつ撮影してマイページにアップするので、ユーザーは預けたモノの状態をスマートフォンやパソコンでいつでも確認できます。モノの出し入れは1点ずつ自由に行え、そのままオークションへ出品することもできます。2012年にサービスを開始し、預けられているアイテムは衣類が最も多く、その次が書籍やコミック、3番目がフィギュアの順です。


【用語解説】
トランクルーム
物品を有料で保管する倉庫業のうち、主に一般消費者から寄託された物品の保管を行うスペースのこと。


――大変ユニークなサービスですが、どういった経緯で生み出されたのですか。

月森:弊社では40年ほど前から、トランクルームビジネスも行ってきました。ところが、2000年の規制緩和以降、不動産業者など他業種から倉庫業界への参入が増え、トランクルームビジネスの価格競争が激化していったのです。

一方で、従来のトランクルームのサービスには、預けたモノをユーザーが忘れる、あるいは、そもそも預けた事実すら忘れてしまうという課題がありました。この課題を解決することこそが生き残りのチャンスと考え、次世代のトランクルームを作るプロジェクトを立ち上げました。それが、箱単位ではなく箱の中のモノを個々に管理するminikuraのサービスです。まさに、荷物や箱単位ではなく「個品を管理していく」という発想なのです。

寺田倉庫での個品管理の様子

寺田倉庫での個品管理の様子

月森:サービスを立ち上げて、物品を個品管理するうちに、それまでトランクルームで行ってきた物品の保存、保管以外にも、新たなサービスの提供が可能であることに気づきました。例えば、保管していた物品を1点単位で発送したり、クリーニングをしたり、不要になったモノをオークションで売ったりなどです。

そうしたサービスを拡充した結果、一層可能性を感じるようになった我々は、minikuraに社会のインフラのようになってもらいたいと大きなビジョンを描くようになりました。

そこで2013年、機能を一部公開(API化)することに決めたのです。これが「minikura+」です。minikuraの仕組みを弊社だけで使うのではなく、アイディアを持つ人たちに提供して“協業”すれば、おもしろいビジネスが生まれるのではないかと考えたわけです。


【用語解説】
倉庫業
顧客の物品を、倉庫などの建物で有料で保管する事業。運送業と並んで物流の中核となる事業で、倉庫営業とも呼ばれる。


寺田倉庫が物流を担い、新しいサービスを生み出す

――minikura+では、他社にどのようなサービスを提供していますか。

月森:一言でいえば、物品の保管に関連する物流機能の提供です。倉庫に送るだけで入庫を受け付け、預け入れられた荷物は1点 1点、写真やバーコードで管理します。そのため、リアルタイムで物品の状態が確認できます。温湿度管理やセキュリティも万全です。出庫はアイテム毎に行うことができ、アイテムを販売するのか、レンタルするのか、それぞれの用途に合わせて最適な物流機能を提供します。

寺田倉庫専務執行役員 月森正憲氏

月森:さらに、アパレルのレンタルサービスを行う事業者に向けては、レンタルの注文を受ければ、弊社が倉庫からアイテムを取り出して配送し、レンタルから戻ってきた商品の検品やクリーニングを行うなどのサービスも提供しています。

主にECサイト運営事業者や、レンタルをはじめとしたシェアリングサービスを提供する事業者、オークション事業者などにご利用いただいています。

先ほど協業と申しましたが、単にminikura+のサービスを提供するだけでなく、提供先と協力関係を結び、じっくり話し合いながら新規事業を立ち上げていくのが基本的な方針です。提携相手としては、ベンチャー企業が多く、約8割を占めています。

弊社は、創業メンバーにやる気があり、ビジネスのアイディアに魅力を感じれば、進んで提携しています。ベンチャーとの提携が多いのは、そうした事情からです。

――御社へ物流機能をアウトソーシングする形でベンチャー企業と協業し、新たなビジネスを生み出しているということですが、具体的な事例を教えてください。

月森:ベンチャーと協業した最初の事例は、シェアリングサービスを手掛けるベンチャーのエアークローゼット社との提携です。minikura+の導入により、ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」 を2015年に事業化させました。

airClosetは、月額を払うとスタイリストが選んだ洋服が一度に3着送られてきて、それを返却すると、また別の洋服が送られてくるといったサービスです。両社ともアパレル事業の経験がなかったもので、サービスを構築するまでには試行錯誤を繰り返しました。結局弊社は立ち上げ当初のairCloset事業に対して、倉庫での洋服の保管と、ユーザーへの洋服の配送、使用された洋服の回収とクリーニング、検品などの物流機能を提供することになりました。

月森:そのほか、プラモデルやフィギュアなど個人のコレクションを預かる、バンダイのサービス「魂ガレージ」、レナウンが手掛ける月額制ビジネスウェアレンタル「着ルダケ」などにもminikura+は導入されています。ショッピングサイト「BUYMA」の返品機能も弊社が担い、返品受付や返品商品の管理、検品などの業務を代行しています。

困難に挑戦することで物流に新しい可能性を生む

――預かった箱を開けて個品管理するというサービスは特徴的ですね。実現にあたっては困難も多かったのではないかと推察されますが、いかがでしたか。

月森:我々がもともと扱ってきたのは個人の持ち物です。新品なら、たとえ何かのトラブルで破損や紛失が起こったとしても、同じモノを用意して弁償できるでしょう。しかし、個人の持ち物で、例えばひとつとして同じものがない思い出の品だったりすると、それがかないません。ですから、個人の持ち物に手を触れ、個品管理するのはリスクが大きく、それまでどこのトランクルームでも行われてこなかったのです。

社内からも、リスクを背負ってまでサービスを立ち上げる必要があるのかと反対の声が上がったこともありました。それでも個品管理にチャレンジしたのは、ユーザーの課題を解決する、必要とされるサービスだと確信していたからです。

ワイン倉庫の様子

美術品や高級ワイン、貴重品など、価値が高いモノを厳重に保存保管する事業を行ってきた実績があったことも、個品管理に踏み切った理由の一つだという

月森:とはいえ、なかなか困難な挑戦ではありました。しかしその分、他社が簡単には真似できない、オリジナルのサービスを構築できたと思っています。個人の持ち物を個品管理するminikuraのサービスは、弊社が世界初でしたし、minikura+で提供する物流のアウトソーシングは、手軽にスピーディーに導入できると好評をいただいています。

成果としては、これまでにminikura+を活用した数々の新規事業が実現し、現在は30社と業務提携をしています。minikuraもサービス開始以来利用者は増え続け、いまではminikuraとminikura+合わせて約1700万アイテムを預かり、保管しています。

時代の変化に合わせてオープンイノベーションを推進

——minikuraはITを活用したシェアリングサービスであり、その仕組みを他社と共有するminikura+は、次々にオープンイノベーションを巻き起こしています。シェアリングサービス、オープンイノベーションなど、御社が時代のニーズを捉えた価値を創造できている秘訣はどこにあると思われますか。

月森:2012年、中野善壽社長(当時)の就任とともに本格的に始められた変革がきっかけで、いまある企業文化が醸成されました。それまでは新規事業に次々挑戦するような社風ではなかったのですが、ニッチな分野に進出して他社との差別化を図っていく中で、変革を遂げていきました。また、時代のニーズに対応した価値を創造するため、若い人の意見やアイディアを積極的に取り入れるようにもなりました。ベンチャー企業との協業もそのうちの1つです。

そうして新しいことにチャレンジし続けた結果生まれたのが、minikuraやminikura+などのサービスなのです。

――今後の目標や課題を教えてください。

月森:個品管理はシェアリングビジネスと相性がよく、実際に、minikura+の導入先も、レンタルサービスを行う事業者が多いです。その反面、ほかのビジネスでも広くminikura+を活用してもらいたいと考えていて、レンタル以外だと、どのようなビジネスなら個品管理の特徴が活かされるか、その可能性を模索しているところです。

寺田倉庫専務執行役員 月森正憲氏

もう1つの課題は、集めたデータをいかに活用するかです。弊社には、1700万の個人の持ち物を管理する中で蓄積された、物品や顧客のデータが膨大にあります。そのデータをうまく分析できれば、minikuraやminikura+、物流の発展のために役立てられると考えています。

minikura+は物流機能のアウトソーシングを身近なものにしました。その点は功績と言っていいでしょう。ただし、いまはまだ、大きなインパクトを与えるような事例は出てきていません。それでも、データを活用しつつ他社とタッグを組むうちに、この先必ず、物流業界の課題解決にもつながる新しいサービスが生まれるだろうと思っています。

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