自動運転OS「Autoware」開発者の加藤真平東大准教授が志す、技術の“民主化”と“開放”

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自動運転OS「Autoware」開発者の加藤真平東大准教授が志す、技術の“民主化”と“開放”

取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:藤牧徹也


政府は、2020年までに高度な自動運転を実現させるという目標を定めている。そんな中、急ピッチで進む自動運転技術の開発を支えるのが、自動運転のオペレーティングシステム「Autoware(オートウェア)」だ。実証実験はもちろん、国内外のさまざまな自動運転プロジェクトで採用され、これまでに導入した企業は200社を超えるという。2018年には国際業界団体「Autoware Foundation(オートウェアファウンデーション)」も設立され、Autowareの普及や技術開発はさらに活発化している。Autowareを業界標準にすることを目指し、“自動運転技術の民主化”を進めるのはなぜなのか。開発者である東京大学大学院情報理工学系研究科の加藤真平・准教授に語ってもらった。

加藤真平

加藤真平(かとうしんぺい)

1982年神奈川県藤沢市生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科准教授、名古屋大学未来社会創造機構客員准教授、株式会社ティアフォー取締役会長兼最高技術責任者(CTO)、「The Autoware Foundation」代表理事。慶応義塾大学理工学研究科開放環境科学専攻後期博士課程修了後、カーネギーメロン大学、カリフォルニア大学の客員研究員、名古屋大学大学院情報科学研究科准教授を経て、現職。専門はオペレーティングシステム、組込みリアルタイムシステム、並列分散システム。

国内外200社以上が採用した自動運転OS「Autoware」

――「Autoware(オートウェア)」とはどういったソフトウェアですか。

加藤:誰でも自由に使ってもらえるオープンソースの自動運転OSです。OSといえば、スマートフォン上で動く「iOS」や「Android」、PCを動作させる「Windows」や「macOS」などが有名ですが、Autowareは人工知能やセンサーを機能させる役割を担う、自動運転用のOSです。これを使えば、無償で独自の自動運転システムを構築したり、カスタムせずにそのまま自動運転の実験に活用したりできます。

Autowareは、走行中の車両の位置や向きを把握するための「自己位置推定」や、信号や障害物を検出するための「環境認識」など、自動運転に最低限必要な機能を網羅しています。PCや自動運転向けの無線装置上でも動くので、乗用車だけでなく、車いすやゴルフカートなどさまざまな車両にシステムの実装が可能です。実際の経路の設定は数時間~1日もあればできあがり、工場や倉庫など施設内のレイアウトの変更や用途の変更にも柔軟に対応させられます。

なかでも最大の特徴は、世界初のオープンソースの自動運転OSである点です。Autowareは国内の数多くの実証実験に採用され、最近では日本にとどまらず、米国、中国、欧州をはじめ、海外の自動運転プロジェクトでも使われるようになりました。具体的には、輸送用機器を製造する「ヤマハ発動機」や米国の大手半導体メーカー「エヌビディア」など、これまでに国内外の200社以上が採用。約800人のエンジニアのコミュニティーによって、Autowareやそれを活用する自動運転技術が日夜アップデートされています。

加藤 真平 氏

東京大学大学院情報理工学系研究科准教授/株式会社ティアフォー創業者・最高技術責任者(CTO)加藤 真平氏

世界最高のプラットフォームにするための「オープン戦略」

――Autowareをパッケージとして販売せず、あえて無償で公開したのはなぜですか。

加藤:オープンソースのソフトウェアが存在しないと、各大学や企業で自動運転技術を研究開発する際に、効率が著しく悪化するからです。例えば、誰かが自動運転のための画像認識技術を開発したとしても、自己位置推定など自動運転に必要なほかの機能をそろえ、実証実験ができる環境を整えてからでないと、開発した画像認識システムのテストすらできないということになります。

もう1つの大きな理由は、AutowareをGoogleやAmazonのように世界最高峰の価値を持つプラットフォームに育てたいと思っているからです。プラットフォームとは、サービスやビジネスを展開するための基盤ですが、Autowareを、自動運転技術を研究開発する人たちのための基盤とすることを目指しています。

実は私たちがAutowareを開発する以前から、Googleは自動運転技術の研究に着手していました。Autowareは後追いだったうえに、私たちは、私と学生合わせて5人ほどの極小チーム。Googleの圧倒的な開発規模を考えると、同じ方法で開発していたのでは差が開くばかりで、追いつき追い越すためにはオープン化するしか道はなかったのです。

というのも、無償で公開して、使用するみんなで開発を進めるスタンスを取れば、Autowareをよりよくしようと、自動運転技術に興味を持つエンジニアたちが自然と集まってきます。現在約800人いるAutowareのコミュニティーのうち、100人ほどのエンジニアが活発に開発に携わっている状況で、これだけ多くの人数で自動運転ソフトの開発を進めている組織は他にないと思います。

加藤 真平 氏

――2018年12月に国際業界団体「Autoware Foundation」を設立されたのは、開発規模のさらなる拡大のためでしょうか。

加藤:Autowareの世界規模での研究開発、および普及の推進が設立の目的です。「Autoware Foundation」は、米国の自動運転システム開発スタートアップ「Apex.AI」と、英国半導体設計大手「ARM」を支援する団体「Linaro」と共同で立ち上げました。

設立時点での参画企業は、自動運転ソフト開発を手掛けるトヨタ系の「TRI-AD」や、中国の通信機器メーカー「Huawei」、韓国の情報通信メーカー「LG」、米国の半導体メーカー「Intel」など、自動運転の社会実装に欠かせないソフトウェアやハードウェアを有するグローバルトップ企業21社にものぼりました。幅広い企業の結集を呼びかけ、2019年1月から新たに加入の申し込みを開始しています。承認などのプロセスを経た後、4月から月に10社ぐらいのペースでメンバーが増えています。

それまでAutowareは、私が創業したベンチャー企業「ティアフォー」の持ち物だったのですが、Autoware Foundationにすべての権利を譲渡しました。今後も、ティアフォーのエンジニアがAutowareの開発に積極的に加わりつつ、参画企業にプログラマーの派遣などAutowareの発展のためのリソースを提供してもらい、世界中のあらゆるメーカーの車両にAutowareを搭載してもらえるよう技術開発を進めていくつもりです。

★Autoware Foundationの参画企業一覧の図

参画企業一覧

「Autoware Foundation」にはさまざまな企業が参画している

目標は自動運転技術の「独占」ではなく「開放」

――Autoware の権利も手放されたのですね。

加藤:まず、オープン化すれば競争力が飛躍的に上がります。そのわかりやすい例が、PCを動作させるためのOSです。いま研究開発やサーバー用途では、商用OSのWindowsよりもオープンソースOS「Linux」を使っている人の方が圧倒的に多い状況です。

Linuxのようにオープンソースの優れたソフトウェアとエンジニアのエコシステムができあがると、自社開発では勝ち目が薄くなり、競争は起こらなくなります。無償で公開というのは、それだけ開発者や使用者にとって大きなメリットだということです。

AutowareもLinuxと同じように、オープン化により業界標準を確立したい。そして、自動運転ソフトウェア開発の分野で、他企業の参入を許さない状況を作りたいと考えています。さらに、The Autoware Foundationという世界的なアライアンス(戦略的同盟)の元に置いて開発規模を拡大していけば、名実ともにGoogleに対抗できるようになるだろうと思っています。


業界標準
ISOやJISなどの規格制定機関の認定によるのではなく、市場競争を勝ち抜くことによって、事実上その業界の標準と見なされている規格。ディファクトスタンダード。


――他企業の参入を許さないということは、GoogleやAmazonをはじめとするプラットフォーマーのように、市場の独占を進めていくのでしょうか。

加藤:そうではありません。日本はソフトウェアやプラットフォーム産業で、米国や欧州に遅れを取っています。この先これらの産業を完全に牛耳られると、日本の経済は大打撃を受けることになり、むしろ、そうした流れを防ぎたいと考えています。

Autoware をオープン化し、業界団体を立ち上げたのは、Autowareを自動運転ソフトの業界標準にしてAmazon やGoogleなどのプラットフォーマーと互角に渡り合うための戦略です。ただし、私たちが目指すのは、自動運転技術の“民主化”であり、“独占”ではありません。あくまで“開放”なのです。

加藤 真平 氏

加藤:今の自動車業界は垂直統合型、つまり大手自動車メーカーが、商品の開発から生産、販売までを、下請けを含む関連企業で一手に行っている状況です。まだクローズドな世界で、関連企業以外の人たちは、自動車産業に参入して発展に貢献したいと望んでも、ほとんど手段がありません。

これからやって来る自動運転の世界では、あらゆる技術を誰もが使えるよう民主化することで、その状況を打ち破りたい。私たちが開発規模を拡大させて技術をオープンにすれば、さまざまな組織、個人が開発競争をするのではなく、ともに自動車産業の発展に貢献しながらそれぞれにメリットを享受できる社会が実現するでしょう。そのような環境を構築することが、総合的に見て社会を最もよくする方法だと思うので、私たちはそれを目指して進んでいきたいと思っています。

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