流通ビジネス専門誌の編集者が語る!小売業の現場と最新テクノロジー(2)

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流通ビジネス専門誌の編集者が語る!小売業の現場と最新テクノロジー(2)

取材・文:相澤良晃、写真:高橋枝里

大手チェーンストアにはマネできない、地域密着の売場づくりとユニークなサービスで人気を集めているローカルスーパー。この記事の前編では、地元メーカーとタッグを組んでオリジナル商品を開発したスーパーや、学習塾やレストランなどの小売以外のサービスも提供することで顧客のハートをつかんでいるスーパーを紹介した。

後編では、「無人レジ」「ロボット」など、最新テクノロジーを切り口に小売業を取り巻く潮流についてお伝えしたい。前編に引き続き、流通ビジネス専門誌『ダイヤモンド・チェーンストア』を発行する株式会社ダイヤモンド・リテイルメディアのデジタルマーケティング室 室長・小平田康寛氏と『ダイヤモンド・チェーンストア』副編集長・雪元史章氏に話を聞いた。


『ダイヤモンド・チェーンストア』
ダイヤモンド・リテイルメディア社(東京・千代田区)が年22回発行する流通ビジネス情報誌。徹底した現場取材とデータ主義で、流通業のマーケティング&イノベーションにつながるビジネスヒントを届けている。前身の『ダイヤモンド・エイジ』から数えて、今年で創刊49年目を迎える。オンラインストアはこちらから。


経営者しだいで明暗分かれるローカルスーパーのIT化

――ここ数年、セルフレジや自動発注、キャッシュレスシステムを導入する大手スーパーが増えていますが、ローカルスーパーでもそうした動きはありますか?

小平田:もちろんあります。ただ、ゆっくりですね。

ローカルスーパーでIT導入がなかなか進まない理由は、IT投資に回せるほどの経営体力がない、ことです。また、そもそも日本では、大手の小売でもアメリカや中国に比べてIT化が進んでいないという問題もあります。

しかし、なかには少しずつIT化が進んでいる会社もあります。たとえば、埼玉県を中心に約160店舗を展開する「ヤオコー」は2015年にチラシ商品をネットで購入できるサービス「YAOKOネットスーパー」を開始しています。

『ダイヤモンド・チェーンストア』副編集長・雪元史章氏とデジタルマーケティング室 室長・小平田康寛氏

左から『ダイヤモンド・チェーンストア』副編集長・雪元史章氏、デジタルマーケティング室 室長・小平田康寛氏

その後もオンラインギフト販売の「いつでもギフト」や、スマホでポイントを貯められる「ヤオコーアプリ」などを続けてリリースし、最近は、携帯電話番号とパスワードの入力だけでネットスーパーで買い物ができるサービスを始め、話題になりました。購入代金は、まとめてコンビニで後払いするという仕組みです。

また、愛知県豊橋市を拠点に11店舗を構える「クックマート」は、38歳の二代目、白井健太郎氏が率いています。入社前、インターネット広告やキャラクタービジネスなどの情報コンテンツ制作に関わっていたという白井氏は、社員のモチベーションをアップさせるために年功序列を廃し、実力ある若手を幹部に抜擢するなど大胆な組織改革を押し進めました。

同時に社内インフラの整備にも力を入れ、メーリングリストや社内SNSを導入することで従業員同士のリアルタイムな情報共有を実現。さらに採用サイトを若者向けに大幅リニューアルするなど、前職の経験を生かしてITを活用しています。

こうしたITを活用した経営改革に前向きな若手経営者が増えれば、業界のIT化もますます加速していくのではないでしょうか。

単価の安い生鮮食品を扱うスーパーマーケットでRFID導入が進まない理由

――アメリカの「Amazon Go」のように、店舗全体にITを導入した無人化店舗が日本のスーパーマーケット業界で登場するのは、まだまだ先になりそうですね。

小平田:そうですね。やはり現状ではコスト面で厳しいと思います。

私も雪元も、昨年、シアトルの「Amazon Go」1号店を取材しましたが、かなり大がかりなシステムが導入されていました。無数のセンサーとカメラが天井に設置され、顧客と商品の動きを感知して自動的に商品の決算を行う仕組みです。この店舗の建設には莫大なコストがかかると思います。

また、アリババの実験店舗「タオカフェ」(すでに閉店済み)は、1つひとつの商品に「RFID(無線)タグ」を付けることで自動決算を可能にしていわけですが、それをスーパーの生鮮食品に導入するのは現実的ではないと思います。たとえば青果は、生産者→農協→市場→小売店という流通経路が一般的です。つまり小売がタグをつけられるのは、市場で仕入れたあとのタイミングになります。しかし、それでは苦しい。手間と時間をかけてタグをつけているうちに生鮮品の鮮度がどんどん落ちていきますから、それよりも早く売り場に出したほうがいいですよね。

デジタルマーケティング室 室長・小平田康寛氏

国内では「ユニクロ」「GU」「ユナイデットアローズ」がRFIDタグを導入して成果を挙げていますが、いずれもアパレルメーカーです。工場で効率的にタグをつけることできるうえに、スーパーよりも商品単価が高いので、コストの問題もクリアしやすい。現在、RFIDタグの製造原価は1個6~7円程度と言われており、1個10円の駄菓子も扱っている食品スーパーが導入をためらうのは、納得できる話だと思います。

ただ、経済産業省は2017年に、「2025年までに、セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズのすべての取扱商品に電子タグをつける」という「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」をしました。国が旗を振ってRFIDタグを普及させようとしているわけですから、今後はもっと導入が進んでいくかもしれません。

テクノロジーが人の作業をサポートすることで、「正解のない接客」を突き詰められる

――今後、ローカルスーパーに普及していきそうな注目のテクノロジーやツールがあれば教えてください。

小平田:やはり業務効率を改善してくれるロボットは、現場で普及しつつあります。

たとえば、ほかの地域よりも人口減少のペースの早い北海道にあって、着実に組合員を獲得し利益を上げている「コープさっぽろ」は、宅配商品の物流拠点である「江別物流センター」に2018年8月、自動倉庫型ピッキングシステムの「オートストア」を導入しました。

オートストアは家具小売大手の「ニトリ」が導入したことで話題になったシステム。広大な倉庫に山のように積み上げられた「ビン」(ボックス)から、発注商品をロボットが自動でピッキングするというものです。江別物流センターでは75ℓ容量のビンが13段で、計1万3594個積み重ねられており、70台のロボットが稼働しています。オートストアの導入により、それまで5000SKUだった取り扱い品目は、2万SKUまで増加し、作業効率も大きくアップしました。


【用語解説】
SKU
Stock Keeping Unitの略で、在庫管理上の最小単位。


参考記事:国内初導入! ロボット倉庫「オートストア」がニトリの物流の現場を改革


雪元:そこまで大がかりではなく、すぐに導入できるのは「アシストスーツ」ですね。体に装着することで、荷物の上げ下ろしなど、作業者の体の負担を軽減してくれるというスグレモノです。

アシストスーツ製造の草分けである「ユーピーアール」は、モーターが体の動きを補助する約90万円の「マッスルスーツ」をメインに扱っていますが、いま売れているのは2万円台で購入できる比較的シンプルな構造の「サポートジャケット」です。背中に取り付けることで、重い荷物の上げ下げの負荷が軽減されます。介護の現場や製造現場はもちろん、流通業界からも注文が集まっているそうです。小売の現場では、とくに高齢の方や女性の働き手の負担軽減につながると思います。

ダイヤモンド・チェーンストア』副編集長・雪元史章氏

――やはり海外の小売業界は、日本よりもロボティクスの導入が進んでいますか?

小平田:ええ、アメリカに本社を置く世界最大のスーパーマーケットチェーンの「ウォルマート」は、最先端のロボットをどんどん投入しています。

いま「ウォルマート」は、店舗とEC倉庫が一体化した「マイクロ・フルフィルメントセンター」(MFC)に力を入れています。そこで2018年から試験導入されているのが「アルファボット」というピックキングロボットです。広い倉庫を動き回り、ネット注文された乾燥食品、冷蔵・冷凍食品などの保存食品を自動でピックアップして担当者のもとへ運んでくれる。あとは、その担当者が梱包して受け取りに来たお客さんに渡すという仕組みです。

倉庫のみならず店舗でもロボット導入が進められており、たとえば、オンライン注文した商品をセルフで受け取ることができる専用機「ピックアップタワー」は700店舗に導入。これは、いわば巨大な受け取りボックスという代物で、オンライン注文時に送られてきたメールのバーコードを「ピックアップタワー」にかざすと、商品が自動でコンベアに乗って運ばれてくるというものです。

――最後に、あらためてローカルスーパーの魅力や可能性についてお聞かせください。

雪元:地域に根ざして長年、続いているお店が多いので、販売戦略に役立つデータをかなり蓄積していると思います。それは今後大きな武器になるはずです。前述のコープさっぽろは、そうした情報をメーカーと共有しています。

そのデータを活用してメーカーがより高品質の製品をつくるようになれば、結果的に自分たちの利益にアップにつながりますし、何より、消費者に喜んでもらえる。メーカーを含めたサプライチェーン全体のなかでデータを有効活用するローカルスーパーがもっと増えてくるとおもしろいですね。

雑誌『ダイヤモンド・チェーンストア』

小平田:私は、やはり地域とともに歩んできたスーパーですから、その土地の人間のことをよく知っていることが強みだと思います。

日本は県民性・地域性が豊かな国なので、その土地ごとにベストな接客方法は異なります。たとえばアメリカでは、アロハシャツを着た定員が、やりすぎと思えるほどフレンドリーに話しかけてくれる「トレーダー・ジョーズ」という食品スーパーのチェーンが大人気です。しかし、そのお店と同じスタイルの接客は、たとえば大阪では好まれるかも知れないけど、京都では敬遠されるかもしれない。人付き合いに正解がないように、接客方法にもまた、絶対の正解はないと思います。

その土地のことをよく知り、地域住民の顔をよく見てきたローカルスーパーにしかできない接客・サービスを突き詰めていっていただきたいと思います。我々は、各地の個性的なローカルスーパーをこれからも応援していきます。

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