世界初の「AIターミナル」を実現し物流に新たな価値を ――国土交通省が計画する港湾のデジタル化

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取材・文:小村トリコ(POWER NEWS)、写真:井上秀兵

2018年7月、国土交通省は港湾に関する中長期政策「PORT2030」を発表した。港湾とは、船舶の発着や停泊のために人工的に整備された場所のこと。海上輸送をつなぐ「結節点」として物流の要を担う港湾が、デジタル化によって今、変わろうとしている。同省が2030年までに目指すのは、AIやIoT、自働化技術を組み合わせた、世界最高水準の生産性と良好な労働環境を有する「AIターミナル」だ。この進化により日本国内および国際的なサプライチェーンの可能性はどのように広がっていくのか。国土交通省港湾局計画課企画室 坂井啓一専門官と大竹敏生技官に話を聞いた。

経済活動の柱である港湾に求められる「デジタル化」

――そもそも港湾が持つ役割とは何でしょうか。

坂井:大きく分けて3つの役割があります。1つ目は「貿易の出入り口」です。他国との貿易によって経済活動を行っていますが、その際、島国である日本の出入り口として重要な機能を持つのが港湾です。日本が毎年輸出入する貨物のうち、金額ベースでは約70%、重量ベースでは99.7%が港湾を通過します。外国からの貨物はコンテナ船によって大量に輸入され、港でトラックに移し替えられた後に日本全国に運ばれます。異なる交通モードを接続するハブとなるのが港湾なのです。

国土交通省港湾局計画課企画室 坂井啓一専門官

国土交通省港湾局計画課企画室 坂井啓一専門官

2つ目は「産業空間」としての役割です。コンビナートと呼ばれる大規模な工業地帯のほとんどは港湾に隣接しています。石油や石炭などの単価が比較的安いものは、輸入直後に加工した方が輸送は簡単になり、費用も少なく済むからです。加えて、輸送品を貯蔵しておく冷凍または冷蔵倉庫なども港湾付近に数多く立地しており、産業活動の拠点として機能しています。

これらを踏まえて、3つ目の役割である「人が集まる場所」としての認識を今後はさらに深めていく必要があります。物流や産業活動の拠点として人が集まるだけでなく、港湾は「人流」、つまり人の移動においても重要な意味を持ちます。フェリーやクルーズ船といった人を運ぶ船のマーケットは近年注目されてきており、クルーズ市場を例にとれば、2013年に年間約17万人だったクルーズ船による訪日外国人が、14年には約41万人、直近の18年では約244万人にまで拡大しました。

横浜港や神戸港、函館港、小樽港、北九州港などのいわゆる「港町」では、港湾を中心にした街並みが古くから栄えてきました。港湾とは地域の成長力を確保し、ひいては日本全体の経済を支える重要な要素です。私たちが港湾の発展に注力する理由はここにあります。

――物流の面において、現在の日本の港湾が抱える課題は何ですか。

坂井:サプライチェーンの効率化は大きな課題です。近年の製造業では、工場を東南アジアなどに置いて部品などの基礎素材を製造し、それを日本に運んで製品として組み上げるスタイルが一般的です。例えば、港で荷物の積み下ろしが滞ってしまうと、その後のサプライチェーン全体に遅延が発生して完成品のコストが上がり、最終的には消費者が支払う物の値段に跳ね返ってきます。そのため、輸送の経由地点である港湾でいかに迅速かつ正確に作業できるかが重要なポイントになってきます。

国土交通省港湾局計画課企画室 坂井啓一専門官

国土交通省港湾局計画課企画室 坂井啓一専門官

坂井:海外の港湾では、荷役機械の自動化や遠隔操作化により競争力を上げている港湾も見られます。日本でも、労働環境や荷役作業の安全性の向上に向け、こうした技術の利活用を検討していくことが重要と考えています。

大竹:「貿易手続き情報等のやりとり」が非効率的であることも問題です。物流に関わる事業者間では、紙や電話ベースでの情報伝達が依然として残っており、処理スピードが遅くなります。これが原因のひとつとなり、貨物の積み換え場所である「コンテナターミナル」のゲート前には、入場を待つトラックによる渋滞が起こります。

国土交通省港湾局計画課企画室 大竹敏生 技官

国土交通省港湾局計画課企画室 大竹敏生 技官

大竹:トラックのドライバーにとっては無駄な待ち時間である上に、貨物の搬入が遅れればターミナルでの作業全体の遅延につながり、問題視されています。

人工知能の活用で、世界一の港湾の実現を目指す

――「PORT2030」のコンセプトとして、2030年の港湾が持つべき3つの役割を提唱されています。これについて詳しく教えてください。

坂井:まずは「Connected Port」。物流の結節点として、日本と海外を、生産者と消費者を、また国内の企業間などを幅広くつなぐ存在としての港湾の機能確保に取り組みます。具体的には、日本と東南アジアを行き来する航路の維持と拡大が挙げられます。次の「Premium Port」は、産業や観光の拠点としての強化です。大型船を受け入れるための施設の整備や、港周辺に高速道路や建築物をつくることを支援していきます。そして最後の「Smart Port」は、デジタル化によって港湾の運営サイクルの効率化を目指します。

――デジタル化とは、具体的にはどういった取り組みでしょうか。

坂井:情報通信技術を活用した、港湾のスマート化です。自働化や遠隔操作の技術導入に加えて、貨物の情報などのデータを集約して、ビッグデータとして管理する。それを人工知能で解析することによって、例えばどのコンテナをどういった順番でどの場所に配置すれば良いか、といったコンテナ蔵置計画の最適化が可能になります。これらの構想を「AIターミナル」と呼んでおり、2022年度の「AIターミナル」の実現を目標にして現在システムの構築を進めています。

AIターミナル

坂井:人工知能を使ってターミナル運営を効率化するという事例は、現状ではまだ世界のどこにも存在しません。実現すれば、日本の港湾は世界一の能率性を持つことができるはずです。

大竹:港湾物流に関する手続きをはじめ、貨物、車両、船舶などのあらゆる情報を電子化して、「港湾関連データ連携基盤」と呼ばれるプラットフォームでデータ連携を行えるようにします。これにより各事業者は、リアルタイムで必要な情報をやりとりすることができます。

例えば、コンテナターミナルのゲート前でトラック渋滞が起こる一因は、ランダムに運ばれてきたコンテナの内容を、その都度ゲートの担当者が確認して処理しているからでもあります。港湾関連データ連携基盤によって、そのはるか前段階である貨物の製造時点から、どんな事業者がいつ何を運ぶ予定なのかを共有できれば、荷主は渋滞を予測して回避することも可能なはずです。同時に、ターミナル側ではあらかじめ貨物の受け入れ体制を整えておき、よりスピーディに処理を進められるでしょう。

――この政策は2018年7月に発表されてまだ始まったばかりですが、現在の進行状況はいかがでしょうか。

坂井:国土交通省では、数年前から個別プロジェクトとしてAIターミナルの要素技術の先行研究と実証を進めています。2016年度から2018年度までは、ヤード内でのコンテナの積卸に使用する巨大な門型のクレーン「RTG」の遠隔操作を行う際の安全確保に係る実証事業を行いました。2019年度以降は、新たに民間事業者に対する支援制度を創設し、遠隔操作RTGの導入促進を図っていきます。

人工知能の活用で、世界一の港湾の実現を目指す

大竹:ゲートでの手続きに関しては、同じく2016年度からの3年間、事前予約制の導入により、混雑する時間帯に集中する外来トレーラーを分散、平準化させ、外来トレーラーのゲート前待機時間を削減するなどの実証事業を行いました。さらに2018年度からは、AIを活用したコンテナ蔵置計画の最適化の実証を進めていきます。

データの電子化については、2020年末までに港湾関連データ連携基盤の構築を目標としています。私たち行政と物流事業者などの民間事業者による「港湾の電子化(サイバーポート)推進委員会」を設置し、基本仕様などを検討しているところで、AIターミナルの実現に向けて、同時並行的にプロジェクトを動かしている状況です。

持続的な物流体系でコスト減とサービス向上の両立を

――環境問題など、社会課題へのアプローチとしてはどういったことをされていますか。

坂井:私たちが推進しているのは、持続可能な国内物流体系です。現在の国内物流では、貨物を乗せたトラックが高速道路を走って輸送する形態が主流です。しかしこれは、ドライバーの人材不足や排気ガスによる環境破壊といった課題を抱えています。そこで、船舶による輸送を活用していこうという取り組みがあります。

客船および貨客船である「フェリー」や、「RORO船」と呼ばれるトラックが自走で乗り降りできる貨物船なら、車両ごと貨物を輸送することが可能です。大きいものではトラック100台から150台を、わずか20人程度の船員で運ぶことができます。例えば神戸港から北九州港までを船がトラックを乗せて運航し、港で降ろしたトラックをそのままドライバーが目的地まで運転するといった流れです。神戸港から北九州港までの船での所要時間はおよそ12時間。同じ距離をすべて車両で走った場合は時速80キロで7〜8時間ですから、時間的にもそこまで大きな差は出ません。船の活用によって、二酸化炭素の排出量を5分の1程度まで抑えることができます。

持続的な物流体系でコスト減とサービス向上の両立を

――「PORT2030」の実現によって、日本の港湾物流は将来どのように変わるでしょうか。

坂井:港湾物流は国際競争の激しい分野です。コストとサービスの両方に対して非常にシビアで、単にコストを下げれば良いのではなく、サービスの質を担保しながらコスト管理を考えていかなければなりません。

解決策の1つが今回のAIターミナルの構想です。デジタル化というのは、今あるすべての作業を機械化することではありません。人がするべき仕事を効率化したり、熟練技能者が行っていた作業のデータを把握することによって、次の世代へと継承していくためのものです。AIターミナルの計画を進める上では、サプライチェーンの最適化はもちろん、そこで働く人たちの安全性や働きやすさを向上させていくことが重要なゴールだと考えています。

港湾に直接関わる人は国民全体の一部ですが、例えば毎日使っている紙や、今飲んでいるコーヒーなど、港を通って運ばれる日常物資はとても多い。港湾物流を円滑化し、人が集まる空間として魅力を上げていくことで、結果的に多くの人々の生活をより良いものにしていくことができるでしょう。

港湾の中長期政策「PORT2030」動画

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