ブロックチェーンで日本の貿易手続きをデジタル化する―― 官民協働で開発するデータ連携システム

このエントリーをはてなブックマークに追加
リンクをコピー
メールで送る
ブロックチェーンで日本の貿易手続きをデジタル化する―― 官民協働で開発するデータ連携システム

取材・文:小村トリコ(POWER NEWS)、写真:井上秀兵

ブロックチェーン(分散型台帳技術)とは、取引履歴などのデータを格納した「ブロック」を鎖のように連結して保管し、オープンなデータベースとして複数のユーザーに共有できる仕組みだ。仮想通貨で知られるネットワーク技術だが、これを応用して「貿易」の分野に導入しようとする動きが始まっている。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)は2018年度、ブロックチェーンを活用した「貿易手続きデータ連携システム」の開発と実証事業に着手した。日本の貿易手続きをデジタル化するこのシステムについて、同機構のIoT推進部 藤田浩主査と工藤祥裕主査に聞いた。

アナログなやりとりによって長引く輸出リードタイムが問題に

――日本の貿易業界は現在どのような課題を抱えているのですか。

工藤:国際海上輸送における手続きが問題視されている状況です。世界銀行が毎年発表しているビジネス環境ランキング「Doing Business 2018」において、日本の貿易手続きにかかる時間とコストの評価は、当時35カ国だったOECD加盟国のうち28位と低迷しています。日本政府は港湾のIT化を喫緊の検討課題として、17年に「貿易手続等に係る官民協議会」を立ち上げました。その際に指摘されたいくつかの論点のうちの一つが「CY(コンテナヤード)カットタイム」の短縮です。

SYU00036

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構IoT推進部/主査 工藤祥裕氏

工藤:日本では、北米や欧州向けに国際海上輸送を行う際、荷主は船が入港する「3日前」までに貨物をコンテナヤード(ふ頭周辺にある一時保管施設)に搬入し、同時に貨物の情報を船会社に提供しなければならないという決まりがあります。これを「CYカットルール」と呼び、この期日を過ぎると荷主は積み込みができず、港から荷物を送ることができなくなります。

藤田:もともと入港の1日前に設定されていたCYカットルールですが、2001年の米国での同時多発テロをきっかけに輸出貨物に対するセキュリティ対策が強化されたことで、大幅な前倒しとなりました。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構IoT推進部/主査 藤田浩氏

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構IoT推進部/主査 藤田浩氏

藤田:特に米国、欧州、中国に向けた貨物においては、その内容情報やコンテナ番号などを記した明細書類である「マニュフェスト」を船会社がとりまとめ、入港24時間前までに相手国の税関に提出することが義務付けられています。マニュフェスト作成の手続きに必要な期間として、国内のほぼすべての船会社が一律で3日前ルールを適用している状況です。

工藤:これは諸外国と比較しても時間がかかっています。24時間前までのマニュフェスト提出義務は他国の港においても同様ですが、韓国や香港、ベトナムは船が入港する2日前までの貨物搬入でよく、日本より短いリードタイムでの運用ができています。貨物の滞留時間が長引くことは、荷主にとって大きなロスを意味します。コンテナヤードで1日貨物を滞留させると、数十億円分もの在庫が発生するケースもあります。

アナログなやりとりによって長引く輸出リードタイムが問題に

NEDOでは「貿易手続きデータ連携システム」以外にもさまざまな実証実験を行なっている

――なぜ日本は諸外国よりも手続きの期間が長いのでしょうか。

工藤:事業者間での非効率的な情報のやりとりが主な原因です。港湾貿易には、荷主をはじめ陸運業者、貨物の流れを管理するフォワーダー、港湾施設を運営するターミナルオペレーター、通関業者、税関、船会社など多数のプレイヤーが関わっています。マニュフェスト提出までには各プレイヤーが貨物の情報を確認して適宜更新し、最終的にできあがったデータを船会社に届けることが必要です。この過程において、一部でもFAXや電話が入ると伝達の不備が起こったり、システムへの手動入力や目視での誤入力チェックが発生したりと、多大な時間とコストを要してしまうのです。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構IoT推進部/主査 工藤祥裕氏

アナログなやりとりによって長引く輸出リードタイムが問題に

主な貿易手続きの流れ。同じ情報を複数の事業者間で別々に保管するなど非効率な部分が目立つ

誰もが簡単に操作できるプラットフォームでIT化を促進

――現状では日本の貿易手続きのIT化はまったく進んでいないのですか。

藤田:通関など行政手続きに関してはほぼ100%電子化されています。しかし企業間におけるデータのやりとりのIT化については、一部の大企業の中では行われていますが、あくまで企業単体での話です。一部の大企業はリソースがあるので自社でシステム連携の開発を進められるものの、中小企業となるとそうはいかず、コストのかかる新しいシステム導入になかなか踏み切れません。例えば、年に数回しか輸出業務を行わない企業では、そこに投資するほどのメリットがないわけです。

しかし、それでは港湾全体としてのプロセスの最適化はできません。今回のNEDOの事業方針として、中小企業を含めたすべての事業者が負担なく参加できる包括的な枠組みを構築することを目標としました。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構IoT推進部/主査 工藤祥裕氏

――本事業で開発された「貿易手続データ連携システム」とはどのようなものでしょうか。

藤田:港湾での輸出手続きに関わる事業者同士で情報を共有、管理するための仕組みです。このシステムでは、各プレイヤーがリアルタイムでデータにアクセスできるようにし、状況確認やオンラインでのデータの更新を可能にしました。

具体的には、まず輸出者である「荷主」が船会社に貨物の運送予約を行った後、自社のパソコンからネットワークシステムにログインして、当該貨物の内容や予約番号などの事項を入力します。登録したデータはブロックチェーン技術によってデータベースに反映され、次にそのデータを「フォワーダー」がオンライン上で確認。コンテナ番号など入力すべき項目を埋めていきます。インターネットにつながるパソコンがあればどこからでもアクセスできる簡便な仕組みです。システムの研究開発をNTTデータに委託して実施しています。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構IoT推進部/主査 藤田浩氏

藤田:システムの構築にブロックチェーン技術を採用したのは、従来の基盤システムと比べてセキュリティへの信頼度が高いからです。

誰もが簡単に操作できるプラットフォームでIT化を促進

荷主が貿易手続データ連携システムに情報を登録することで、別の事業者がリアルタイムに情報を確認できる。

工藤:まだIT化が浸透していない貿易業界で企業間のデータ共有を促進するには、安全性の担保は重要な要素です。例えば、荷主が最初に入力したデータを途中で書き換えられてしまったら、大きな損害につながります。ブロックチェーンではデータに対する権限のコントロールがしやすく、改ざんは事実上不可能だとされていることから採用に至りました。

デジタル化が貿易業界発展のカギに

――「貿易手続データ連携システム」の社会実装を目指すための実証実験が2019年2月にスタートしたと伺いました。こちらの成果はいかがでしょうか。

藤田:大枠となる仕組みの構築ができたので、次のフェーズとして実証事業の実施を始めました。関東の京浜港、中部の清水港、九州の博多港と異なるエリアに位置する主要港を選定し、荷主やフォワーダーなど輸出事業者の方々の協力を得ながらの実験です。普段の業務と並行しながら、今回開発したデータ連携システムへの入力を行っていただきました。実証の成果は現在とりまとめを行っており、5月中旬に報告書として公表する予定です。

――本事業がこれから貿易業界の中でどう活用され展開されていくのか、将来の展望をお聞かせください。

工藤:NEDOでは2017年から「IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業」を推進しており、貿易をはじめ流通、航空、社会インフラといった複数の分野において、データ利活用に関する業界横断的な共通仕様の整備などに取り組んでいます。私たちの役割は、経済産業省などの行政機関と連携をとりながら産業技術開発の促進に向けて働きかけ、そこで得られた成果を社会課題解決のための糸口として広く公開していくことです。

デジタル化が貿易業界発展のカギに

工藤:今回の事業は2018年度の1年間という限られた期間内でのプロジェクトです。一番のミッションは、ブロックチェーンを利用したデータ連携システムが輸出に関する一連の手続きの中できちんと機能し、正しくデータが伝達されるという事実を証明することでした。

データ連携の実証試験や調査を行う中で、例えば、「この項目は企業ごとに呼び方が異なるので、整備するためのルールを策定しなければならない」といった、現場の課題を軸にした実践的な指針が見えてきました。この結果を参照した企業から今後新たなシステムやソフトウェアが生まれ、貿易手続きのデジタル化に貢献し、ひいては日本の貿易業界全体の発展につながればと願っています。

このエントリーをはてなブックマークに追加
リンクをコピー
メールで送る

GEMBA

関連記事