自動認識技術、自動走行ロボット、サプライチェーンのデータ化で経済産業省が目指す”強い物流”とは

このエントリーをはてなブックマークに追加
リンクをコピー
メールで送る
自動認識技術、自動走行ロボット、サプライチェーンのデータ化で経済産業省が目指す”強い物流”とは

取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:井上秀兵

内閣府が主導する大型の研究開発「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で「スマート物流サービス」のプロジェクトが立ち上がるなど、国内物流に変革を起こすべく、政府の取り組みはこれまで以上に活性化している。“強い物流”の達成が現実味を帯びる中、政府はいま、具体的にどのような取り組みを推進し、物流の効率化、高付加価値化の実現を目指しているのか。物流分野の課題解決の専門部署である経済産業省商務・サービスグループ 物流企画室の三藤慧介室長補佐に、物流企画室の取り組みの話題を中心に解説してもらった。

前編はこちら

崩壊の危機からいかに脱却するか? “つなげる”物流政策にかける経済産業省の意気込み

国を挙げて“強い物流”の達成を目指す

――2017年7月に、今後の政府の物流施策や物流行政の指針を示す「総合物流施策大綱」が閣議決定されました。政府、そして経済産業省物流企画室は、物流分野の課題解決に向け、具体的にどのような取り組みを行っていますか。

三藤:国内物流を取り巻く環境は、いま大きく変化しています。トラックドライバー不足やEC(電子商取引)の利用率拡大に伴う宅配便取扱数の急増など、総合物流施策大綱は、そうした変化に対応できる“強い物流”の実現を指針として定めています。

経済産業省商務・サービスグループ物流企画室の三藤慧介室長補佐

経済産業省商務・サービスグループ物流企画室の三藤慧介室長補佐

具体的に目指すのは、物流の生産性の向上で、「つながる・見える・支える・備える・変化する・育てる」という以下6つの視点から政府は取り組みを推進しています。

①サプライチェーン全体の効率化・価値創造に資するとともにそれ自体が高い付加価値を生み出す物流への変革(=つながる)

②物流の透明化・効率化とそれを通じた働き方改革の実現(=見える)

③ストック効果発現などのインフラの機能強化による効率的な物流の実現(=支える)

④災害等のリスク・地球環境問題に対応するサステイナブルな物流の構築(=備える)

⑤新技術(IoT、BD、AI等)の活用による“物流革命”(=革命的に変化する)

⑥人材の確保・育成、物流への理解を深めるための国民への啓発活動など(=育てる)

(出典:http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/butsuryu03100.html

これらの取り組みは、経済産業省や国土交通省、環境省、農林水産省など、各府省庁が協力して推進します。物流企画室の担当は、主に①や⑤の一部です。例えば、トラックの積載率を向上させる施策、サプライチェーン全体の効率化のため、非接触でデータを読み書きする自動認識技術の利用を拡大させる施策、自動走行ロボットの活用促進の施策などに取り組んでいます。

中立的な立場にある経済産業省だからこそできる取り組み

――それぞれの取り組みについて、詳しく教えてください。

三藤:トラックの積載率は、ここ20年間で約60%から40%まで下がりました。言うまでもなく、積載率の低い運搬は大変非効率なので、上げるための取り組みを行っています。

積載率は、単純に、週3回運搬していたところを2回に減らし、1度に運ぶ荷物の量を増やすだけで向上します。しかし、物流事業者が運搬の回数を減らしたいと考えても、荷主にとってメリットがなければ拒まれてしまう。つまり、物流に関するサプライチェーン全体のメリットやコストを関係者にうまく配分できなければ実現しないので、我々が話し合いに加わり、中立的に調整しています。

中立的な立場にある経済産業省だからこそできる取り組み

複数のメーカーの商品を1台のトラックでまとめて運ぶ共同輸配送も、積載率を上げるための有効な手段です。民間だと、キリンビール、サッポロビール、サントリービール、アサヒビール4社の共同輸配送や、味の素、カゴメ、日清オイリオグループ、日清フーズ、ハウス食品グループ本社、ミツカン6社の「F-LINE」と名付けられた共同輸配送が成功しています。これに続き共同輸配送を行う事業者が増えるように、荷物のデータやトラックの位置データを取得するための、中小トラック事業者を対象としたGPS機器の導入に関する補助金の交付や、GPS情報を異なる事業者間で共有しやすくする仕組みを促進するなど、我々も支援を実施しています。

次に自動認識技術の推進施策についてですが、自動認識技術をサプライチェーンに導入できれば、検品などの作業を効率化すると同時にデータ化を実現することができます。自動認識技術にはRFID(radio frequency identifier)やComputer Visionなどさまざまなものがあります。扱う商品や扱う売り場の特性も踏まえながら、適した技術を導入していくことが重要です。例えば、RFIDというのは、非接触で電子タグのデータを読み書きする自動認識技術のことです。RFIDはバーコードと違って、複数の電子タグの一括読み取りや、商品の1個単位ずつの識別が可能です。そのため、RFIDを使えば、小売事業者は自動レジを導入でき、在庫管理も容易になります。運送事業者は積載率の可視化により共同輸配送しやすくなりますし、倉庫事業者は在庫管理や検品の手間が大幅に省け、メーカーは欠陥品のトレーサビリティを正確に行えるようになります。

中立的な立場にある経済産業省だからこそできる取り組み

そのように利点が多いRFIDですが、普及させるためには積載率の問題同様、メリットやコストの配分の調整が必要です。RFIDの普及促進のため、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズのコンビニエンスストア5社が、条件付きで2025年までに年間推定1,000億個全ての取扱商品に電子タグを貼り、商品の個品管理を実現させ、その際電子タグを用いて取得した情報の一部をサプライチェーンに提供することを、経済産業省と共同で2017年に宣言。さらに、2018年には日本チェーンドラッグストア協会と経済産業省が共同で同様の宣言を出しました。RFIDなどを通じて取得されるデータをサプライチェーン間で情報共有する際のルールの策定も並行して進め、物流を含むサプライチェーン全体の課題解決に取り組んでいきます。

自動走行ロボットの配送分野での活用も推進しています。自動走行ロボットは、日本のロボットベンチャー「ZMP」や、イギリスのロボットベンチャー「Starship Technologies」、約220カ国の郵便や物流を担う多国籍企業「Deutsche Post AG」などが開発しており、荷物をトラックから降ろした後、個人宅などへ人力で運ばれている「ラストワンマイル配送」の代替手段になるのではないかと期待が寄せられています。

経済産業省商務・サービスグループ物流企画室の三藤慧介室長補佐

三藤:我々は、自動走行ロボットの今後の活用のため、警察庁や国土交通省と話し合いながら社会実装のための検討を進めています。例えば、ロボットにどこを走らせるか。アメリカは歩道を走らせるよう法整備を行ったようですが、日本はどうするのか、どのような安全対策を取っていくのかなど。実現までにはさまざまな環境整備が必要ですが、地道に取り組んでいる状況です。

先端技術を活かすためにはインフラづくりが重要

――経済産業省では、自動走行ロボットのほかにも、先端技術活用に関する取り組みを行っていますか。

三藤:経済産業省として、山間部などニーズが見込まれる地域でのドローンによる荷物配送を本格化させるための取り組みや、トラック隊列走行の商業化に向けた取り組みを行っています。

ただし、物流分野の機械化、自動化は難しい面もあります。例えば、物流施設で使う自動搬送やピッキングなどのロボットはとても高価です。設備投資をするよりも、人件費を支払って人に作業してもらう方が安く済むうちは、導入は進みづらいかもしれません。

経済産業省商務・サービスグループ物流企画室の三藤慧介室長補佐

三藤:また、倉庫内ロボットや、自動走行車、ドローンを物流分野で効率的に活用するためには、その前段階として、データを取って「見える化」し、サプライチェーンの事業者間のコミュニケーションが円滑になるよう環境を整えることが大切だとも思っています。

もし隊列走行が実現しても、積載率20%と10%のトラックが隊列走行するのでは、いまの平均的な積載率40%を越えないわけで、効率化の達成とは言えません。積載率そのものを上げてから隊列走行させれば、隊列走行のメリットがより引き出されますし、それこそが真に目指すべき目標でしょう。そのためには、データ化やサプライチェーン関係者間の情報連携など、インフラづくりがまずは重要なので、先端技術の活用の取り組みと並行して進めています。

「戦略的イノベーション創造プログラム」で物流の効率化・高付加価値化を加速

――取り組みが順調に進めば、国内物流にいい変化が起こりそうですね。

三藤: 内閣府主導で、産学官が連携して研究開発を行う「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の第2期として、「スマート物流サービス」のプロジェクトも検討されています。

このプロジェクトは、世界に先駆けて、モノの動きと商品データの「見える化」を実現し、データプラットフォームを構築するとともに、社会実装を目指すものです。簡単に言えば、データ化を促進し、情報を共有しながら活用することで、サプライチェーン全体を最適化し、製造、物流、販売業の生産性を向上させるための研究開発を行っていく予定です。

情報の有効活用でトラックの運行を最適化できれば、ドライバー不足の解消にもつながります。産学官が知恵を出し合えば、物流の効率化、高付加価値化を一層勢いづけていけるだろうと、プロジェクトの今後に期待しています。

経済産業省商務・サービスグループ物流企画室の三藤慧介室長補佐


このエントリーをはてなブックマークに追加
リンクをコピー
メールで送る

GEMBA

関連記事