モビリティ革命は社会をどう変えるのか? 自動運転の現状と普及シナリオ

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モビリティ革命は社会をどう変えるのか? 自動運転の現状と普及シナリオ

取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:高橋枝里

社会的、経済的に大きな効果が見込まれ、国を挙げて研究開発が進められている自動運転技術。自動運転は今後どのように普及していくのか。また、それに伴い物流はどう変わるのか。東京大学生産技術研究所の次世代モビリティ研究センター(ITSセンター)の須田義大教授に話を聞いた。


東京大学 生産技術研究所 次世代モビリティ研究センター(ITSセンター)
土木・交通工学、機械・制御工学、情報・通信工学などの多分野を連携させ、自動運転による次世代交通システムの研究をはじめ、ITS(高度道路交通システム)の研究開発を行う、日本唯一の大学研究組織。2009年4月発足。


須田義大

須田義大(すだ・よしひろ)

1959年東京都生まれ。1987年東京大学大学院修了、工学博士。生産技術研究所 次世代モビリティ研究センター・教授およびモビリティ・イノベーション連携研究機構長を務める。

自動運転の旗振り役は警察庁をはじめとする官庁

――トヨタとソフトバンクのモビリティサービス分野での提携が話題になるなど、自動運転をめぐる技術開発は勢いを増しています。どのような背景があるのでしょうか。

須田:トヨタとソフトバンクのほか、政府も大きなプロジェクトを立ち上げていますし、ベンチャー企業の参入も盛んです。自動運転技術を開発するスタートアップ、先進モビリティやZMP、ティアフォーなどは昨年、相次いで自動運転の実証実験を行いました。

また、関西の京阪バスや関東の小田急バスなど、バス会社がこぞって自動運転バスを導入しようとしているなど、確かにいま世間は、自動運転の話題で持ち切りです。

インタビューに応じる須田氏

東京大学 生産技術研究所 次世代モビリティ研究センター・教授/モビリティ・イノベーション連携研究機構長 須田義大氏

須田:このように自動運転が盛り上がりを見せている1つの理由は、ICT(情報通信技術)の革新で、自動運転が現実のものになりつつあるからです。

そもそも自動運転とは、言葉のとおり運転の自動化のことです。技術的観点で捉えると、ドライバーが運転で行っているのは「認知」「判断」「操作」の3つで、それらを機械がドライバーに代わって行います。

「操作」自体の技術は1960年代には自動化されていて、アクセルペダルを踏み続けることなく一定速度を維持する「クルーズコントロール」の機能がそれです。残す「認知」「判断」の自動化が難しく、なかなか実用の域に達しなかったのですが、交通環境などを認知するためのセンサー技術や、安全に車両を誘導するための判断を行うAI技術が急速に進化してきたため、自動運転の実用化がかなり現実味を帯びてきたのです。

具体的には、2013年、私がプロジェクトリーダーを務めていた、国立研究開発法人NEDOのプロジェクトで、大型トラックの自動運転・隊列走行実験に成功しました。それを受け安倍晋三首相が「なぜGoogleが公道で自動運転の実験をしているのに、日本ではできないのか」と発言したことが、自動運転技術への関心に火を付けたと言われています。

そして翌2014年、内閣府は「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」において、自動運転システムの開発・実用化の推進を本格的に始めました。いま自動運転の一番の旗振り役は警察庁で、ドライバーが運転操作を必要としない自動運転のための道路交通法の改正も検討されています。なぜなら、いままでの交通安全政策では交通事故死者数を0にはできないのではないかという考えがあるからです。そうした背景のもと、技術開発が活発化したというわけです。

東京大学生産技術研究所の地下には、運転に欠かせない「認知」「判断」「操作」に関するデータを収集する「ドライビングシミュレータ」の装置がある

2020年には小型カートや小型バスが街を自動走行

須田:課題は大きく2つあり、1つ目は先ほども話に出た交通事故です。国内で年間4,000人弱が交通事故で死亡していて、まさに社会問題となっています。2つ目は渋滞による燃費の悪化や排出ガスによる環境負荷で、温暖化や大気汚染などの問題が生じています。

自動運転の実現は、こうした問題の解決に向けて非常に効果的です。実現すれば、交通事故は削減され、渋滞の緩和や不要な加減速の抑制などにより、環境負荷も軽減するでしょう。加えて、自動運転はドライバーの運転負荷を軽くし、運転の快適性を向上させるという、ドライバー個人にとってのメリットもあります。自動運転は目的ではなく、交通安全や快適なモビリティのための手段なのです。

――実用化はどれぐらい進んでいますか。

須田:自動運転レベル1とレベル2の車は既に市販されています。レベル1とは、自動車の主制御(加速・操舵・制動)のいずれかをシステムが行うもので、先ほどお話ししたクルーズコントロールを進化させた「アダプティブ・クルーズコントロール」がそうです。

レベル2は、主制御のうち複数の操作を同時にシステムが行うもので、前の車を認識して車間距離を一定に保つアダプティブ・クルーズコントロールと車線維持装置を組み合わせたものがこれにあたります。実用化は、2016年に発売された日産「セレナ」が国産車では初です。高速道路での単一車線の走行では、アクセル、ブレーキ、ステアリングが自動制御されています。

――近い将来、実用化する可能性が高い自動運転技術はありますか。

須田:経済産業省と国土交通省が共同で、2016年8月から2つのプロジェクトを進めています。1つは、先ほどのNEDOのプロジェクトの後継となる「後続車両が無人のトラック隊列走行」です。トラック隊列走行というのは、先頭車両にドライバーが乗車して有人でトラックを運転し、そこに2台目・3台目には無人の後続車両を電子的に連結させ、隊列を形成する走行イメージです。

隊列走行のイメージ図

隊列走行のイメージ図 (参考:『自動走行ビジネス検討会「自動走行の実現に向けた取組方針」報告書概要Version2.0』)

須田:かつてNEDOのプロジェクトで成功させたのは全車両有人での自動走行だったのですが、それをよりパワーアップさせたプロジェクトです。これはレベル4相当で、2022年の商用化を目指しています。

もう1つが「ラストマイル自動走行」で、最寄駅と自宅などの最終目的地を、小型カートや小型バスの自動走行による移動サービスで結ぼうとする試みです。こちらもレベル4相当で、オリンピック開催年の2020年が実現目標です。

ラストマイル自動走行のイメージ図

ラストマイル自動走行のイメージ図(参考:『自動走行ビジネス検討会「自動走行の実現に向けた取組方針」報告書概要Version2.0』)

自動運転実用化の前に立ちはだかる法的な課題とは

須田:いずれのプロジェクトもレベル4「相当」と言いましたが、これは技術的にレベル4が不可能というのではなく、むしろ法整備の問題です。まずレベル4とは、特定状況下で主制御のすべてをシステムが行い、ドライバーの関与を必要としないものです。特定状況下とは、例えば高速道路に限定するとか、大雨など極限環境を除外することを指します。

自動運転の概念図

須田:道路交通法で、運転の責任はドライバーにあると定められています。ところが、レベル3以上だと運転操作はシステムが行うため、事故などの際、その責任はシステムにあると考えるのが妥当でしょう。

しかし、現行の道路交通法でそれは認められていない。ですから、レベル3以上の自動運転を実現させるためには、法律を改正するか、もしくは解釈基準を変更しなくてはなりません。

つまり、法整備を待つ現在、レベル4の自動運転は法律上認められないことになります。そこで、トラック隊列走行では、先頭車両にドライバーを座らせ、そのドライバーに責任をもたせます。ラストマイル自動走行では、遠隔監視者がドライバーに相当するとして、監視者に責任をもたせます。そうした経緯で、レベル4ではなくレベル4「相当」という表現になっているのです。

――自動運転の実用化には、技術だけでなく法的課題もあるのですね。

須田:そのほかに、自動運転に対する社会的信頼、つまり社会受容性や、国際標準化の課題などもあります。技術面にも依然として課題は残り、例えばトラックの隊列走行実現のためには、センサーやAIの能力をもっと上げなければならない。また、コストも問題です。たとえいいセンサーをつくっても、1000万円もしたら普及しませんから。

自動車ではなくサービスを売るための“レベル4”

――ところで、国のプロジェクトはどちらもレベル4相当の実現に向けたものです。なぜレベル3を飛び越えてレベル4なのでしょう。

須田:レベル3は原則、システムが主制御を行いますが、システムが介入要請をした際にはドライバーが対応します。この場合、ヒトと機械が共同で運転をするため、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の設計が難しいというという課題があります。

例えば、運転をシステムに任せて気が緩んでいるなかで、急にドライバーが運転しなければならないというのは、なかなか無理がある話です。そういうわけで、レベル3は概念的にはあり得ても、高速道路の渋滞時のような特殊な事例を除いて、実用化は厳しいのではないかという見方が最近、支配的になってきました。

自動運転のイメージ画像

須田:また既存の自動車メーカー(OEM)、サプライヤーは、レベル1から2、3、4と順序どおり実用化を進めていくシナリオを描いていますが、例えばGoogleやUberなどの新規参入のIT企業は、レベル3を飛び越え、レベル4を実現させようと考えているようです。

GoogleやUberがレベル4を目指すのは、モビリティサービスを展開しようという狙いからです。交通をサービスとして捉える「MaaS(Mobility as a Service)」ですね。ICTを活用して交通をサービスととらえ、自家用車やバス、鉄道、タクシーなどあらゆる移動手段をシームレスにつなぎ、1つのサービスとして提供しようと考えているのです。

これまでの自動車産業といえば、自動車を売ることが本業でした。しかしIT企業が目指しているのは、自動車ではなくサービスを売ること(参考記事)。レベル4を実現させて、モビリティサービスに特化した車両をつくり、新しい交通サービスを事業化するのが目的です。もっとも、モビリティサービス産業へは、トヨタや日産など、自動車メーカーも参入を始めましたね。

自動運転の実現が物流のドライバー不足を改善

――物流にも変化は起こりそうですか。

須田:自動運転は、ヒトの移動にもモノの移動にも有用です。トラック隊列走行はまさに物流事業者のためのもので、長距離輸送などで隊列走行できるようになれば、当然、省人化に大きく貢献します。

日本ではドライバーの高齢化が進み、ドライバー不足が問題になっていますが、自動運転によって物流が効率化されれば、問題は解消に近づきます。そのため、クロネコヤマトは自動運転に熱心ですし、Amazonも最近、急に色気を出してきています。

また、車を運転できない高齢者が相当増えてきています。特に過疎地の高齢化は深刻で、ドライバー不足から公共交通が運営できなくなり、住人の生活物資の確保が困難になる問題が起こっています。

いま問題が顕在化しているのは物流や過疎地においてですが、今後も高齢化が進むことを考えると、このままでは日本全体のモビリティがマヒする恐れがあります。そのような事態を避けるためにも、自動運転の実用化が急がれます。

東京大学柏キャンパスでは自動運転バスの走行実験なども行われている

いま社会に必要なのは産業全体の協調

――自動運転実用化のカギは何でしょうか。

須田:共存共栄するためのエコシステムだと思います。自動車産業を含め、製造業やサプライチェーンは、産業全体をつないで協調すべきところは協調しようと動いているようですが、モビリティの分野においてもやはり協調が重要です。プレイヤーが集まり協議をして、みながWin-Winになるような関係を築いていかなければならないと思います。

そこで私たちも2018年7月、ITSセンターを核に「東京大学 モビリティ・イノベーション連携研究機構」を新設しました。自動運転の開発には、技術はもちろん、法律や心理、医学なども関わるので、私たち大学にもエコシステムが必要なのです。機構は、モビリティ研究のための東京大学の全学組織になっています。

インタビューに応じる須田氏

須田:いま、あらゆる業界、あらゆる場面で協調が大切と言われるのは、第4次産業革命の影響で、世の中が変わってきているからです。競争ばかりでなく協調もしないと、とても効率が悪い。ですから、大学も産業界も、それぞれがエコシステムを築き、さらに必要とあれば産学が垣根を超え連携できるといいのではないでしょうか。

私たちも、“人間が人間らしく豊かに生活できるモビリティ”を実現するため、これからも各所と連携しながら、自動運転の開発を進めていきたいと思っています。

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