現実路線で世界に誇れる無人店舗を!「モノタロウAIストア」が実現したネットとリアルの融合

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取材・文:相澤良晃、写真:藤牧徹也

工業用間接資材の通販大手「MonotaRO」(モノタロウ)が、AIやビッグデータを活用したシステム開発を得意とするITベンチャー「OPTiM」(オプティム)と業務提携し、無人店舗「モノタロウ AIストア powered by OPTiM」を佐賀大学構内にオープンした。なぜ、これまで通販ひとすじで急成長してきたモノタロウが、ここにきて実店舗を始めたのか。その戦略について、プロジェクトを担当したモノタロウの森岡季彦氏とオプティムの鈴木浩嗣氏に話を聞いた。


【サービス概要】
「モノタロウ AIストア powered by OPTiM」
2018年4月2日に、佐賀大学・本庄キャンパス内にオープンした約30坪の無人ストア。ドライバーやペンチといった工具をはじめ、電子部品、実験用品、文房具など約2000点を販売。スマホアプリ「モノタロウ店舗」をダウンロードし、モノタロウの会員登録をすることで誰でも利用可能となる(※すでにmonotaro.comのアカウントを持っているユーザーはそのままログイン可能)。


入店の際は、アプリを起動してQRコードをゲートにかざす。商品を購入する際は、商品や棚のバーコードをスマホカメラで読み込み、商品情報を確認後、個数をタップして入力。バスケット(カート)に商品が納入され、決済ボタンを押すことでクレジットカードによる支払いが完了し、そのまま商品を持ち帰れる。

「モノタロウAIストア」はリードタイム短縮のための実験店舗

――これまでECサイトを運営されてきたモノタロウが、ある意味では自己否定とも取れる実店舗をオープンしたのはなぜでしょうか。

森岡:モノタロウのサービス向上をめざして実証実験をするためです。

弊社は2000年の創業以来、一貫してECサイトを中心とした通信販売によって商品を供給してきました。現在、取扱商品数は約1700万品目(2018年9月時点)にのぼり、そのうち売れ筋の50万品目は、注文後の翌日に届く体制を整えています。

しかし、残りの1650万品目については、メーカーからの取り寄せなどになるため、お届けまで数日かかってしまうのが現状です。お客様の手元に商品が到着するまでのリードタイムを短縮し、新たな商品供給の方法を探る目的で、実店舗の運営に乗り出したのです。

森岡季彦氏

株式会社MonotaRO商品販売企画部門 事業企画グループ 森岡季彦氏

森岡:無人にしたのは、実店舗の運営にあたって、やはり人材確保と人件費がネックになると考えたからです。また、我々が扱う「間接資材(工具、装置、保安資材、消耗品、補修用品・部材、燃料、サプライ用品等)」においては、職人さんが当日使うものを早朝に買いにいらしたり、現場で足りなくなった資材をお求めになったりというように、「今すぐ必要」というニーズがある商品もあります。

ただ、残念ながら、いまのところ実店舗を増やしていく計画はありません。あくまでも今回のお店は、「商品供給の新たな可能性を探るための実験店舗」という位置づけです。無人化によって出店形態の自由度が増せば、今後、検討の余地が出てくるかもしれません。

――どうして佐賀大学内にオープンしたのですか。

鈴木:オプティムの本店が佐賀大学内にあるからです。実は弊社代表の菅谷俊二は佐賀大学の出身で、在学中の2000年にオプティムを立ち上げました。佐賀県市内に本店としてオフィスをかまえ、本社機能を東京に移したあとも、農業分野や医療分野などで佐賀大学と提携して共同研究や実証研究を行ってきました。

2017年10月、さらに佐賀大学との連携を強化するために、上場企業としては初めて国立大学の構内に本店を移転したのです。こうした縁で、「モノタロウストア」も佐賀大学構内の敷地を借りてオープンすることができました。

鈴木浩嗣氏

株式会社オプティム プラットフォーム事業本部 マネジャー 鈴木浩嗣氏

森岡:「モノタロウAIストア」のプロジェクトが本格的に始まったのは、大学に本店が移転した頃からです。それから約半年で、どうにかオープンまでこぎつけることができました。逆に言うと、半年間での立ち上げを目指していたので、既存のECシステムを最大限流用し開発工数を下げ、無人化を実現したわけです。そのため、決済方法もECと同じクレジット決済を採用しています。

――超巨大資本の無人ストアとは、そもそもシステムが異なるわけですね。

森岡:はい。無人ストアとしては、2018年1月にアメリカのワシントン州シアトルでオープンした「Amazon Go」が大きな話題となりましたが、あちらは比べものにならないほど太規模かつ複雑なシステムです。

「Amazon Go」は商品を手に取り、ゲートを通過するだけで自動的に決済されるという仕組みですが、それを可能にしているのは、天井に取り付けられた無数のセンサーカメラです。おそらくそのセンサーカメラが顧客と商品の動きを認識し、商品が購入されたのかどうかを判断しているのだと思います。同様のシステムを導入するとなると、莫大なコストが必要になります。

また、2017年7月には、アリババグループが運営する無人店舗「タオカフェ」が中国でオープンしていますが、こちらも商品の1つひとつに「RFID(無線)タグ」を付けるという大がかりなシステムです。詳細な技術は非公表ですが、顔認証システムも導入されているのは明らかで、退店時にRFIDタグによって購入商品がカウントされ、顔認証によって顧客を特定し、電子決済口座から代金を引き落としていると言われています。

「モノタロウAIストア」は自動決済ではなく、お客さん自身にスマートフォンでバーコードを読み込んでもらって決済します。大規模なセンサーシステムなどが必要ないため、「Amazon Go」や「タオカフェ」などと比べて、圧倒的に低コストで導入できるという強みがあります。

商品購入時の様子

スマホカメラでバーコードを読み込んで商品を購入する

鈴木:オープン後、小売店や物流業界の関係者が多数、視察にお越しになりましたが、「このぐらいが現実的だ」という声が多く聞こえてきました。実際に「Amazon Go」を視察してきた方々からも、そのように言っていただいたのは嬉しかったですね。既存のECシステムを利用したことで、結果的に無駄のない、シンプルかつ現実的な無人店舗ができあがったと思います。

AIが店舗運営に役立つ分析結果を提供

――店舗には、どのようなICTが用いられていますか。

鈴木:オプティムが開発した店舗管理支援サービス「Smart Retail Management」を導入しています。これは、入退店ゲートの制御や各種センサーからの情報収集機能を兼ね備えた店舗管理支援システムです。

特にAIによる分析機能がすぐれており、店舗に設置されたカメラが人の動きを認識することによって、マーケティングに役立つさまざまな情報を取得します。たとえば、以下の情報です。


【滞在分析】動線(顧客の動き)や滞在時間をヒートマップ化する。店内のレイアウト変更などを考える際に役立つ。
【顧客属性分析】カメラ映像から年齢、性別などのデータを取得。店舗を訪れた客層の把握につながる。
【人物特定】顔認識による人物特定で、要注意人物を知らせる。
【不審挙動検出】酔っ払いや不審者など、異常行動をする人を検知する。


カメラのモニター画面

店舗内に設置されたカメラが顧客の顔を認証する

鈴木:このほか、売上と各種データを結びつけることによって詳細な店舗分析が可能になる「POS連携」や、おもに飲食店で役立つ「空席検知」などの機能もあり、人間では把握しきれない情報をAIで収集・分析します。

分析結果は、クラウド上のプラットフォームに蓄積されてデータ化され、ユーザーはウェブ上で好きなときに参照して、店舗運営に役立てることができるという仕組みです。「Smart Retail Management」は、少ない投資で顧客満足度や店舗稼働率を向上させ、最適な店舗運営を実現できるサービスだと自負しています。

ただ、現段階では、「お客さんが求める商品を予測する」「効率のよい店舗レイアウトを提案する」など、システムが経営のアドバイスを行うまでには至っていません。データが蓄積されればそうした見通しもつくので、「モノタロウAIストア」で収集したデータをしっかり活用していきたいと思います。

課題は、入店手続きの負担軽減と店舗のPR

――「モノタロウAIストア」オープンから約半年が経ちますが、お客さんの数はどうですか。

森岡:ぼちぼち、といったところでしょうか。入店前にアプリをダウンロードしてユーザー登録をする必要があるのですが、それを面倒に感じて、入店をためらう方も少なくないようです。今後の課題は、その手間を軽減することと、店舗のPRを促進して多くのユーザーに利用してもらうことだと考えています。

――どんな商品が売れていますか?

森岡:大学内という立地の特性もあり、文房具などの消耗品が多いですね。また、理工学部の教授や研究員の方は、実験器具や研究材料に使う商品を購入されることもあります 。

店舗の商品数は約2000点あり、ECサイトの売れ行きを参考にしてセレクトしているのですが、高額な商品や大きな商品は置かないようにしています。商品の大半は、兵庫県尼崎市の物流センターから送られてきており、オプティムさんの社員1名が、商品補充や在庫管理、店舗の開け閉めなどを行う店長に任命されています。

店内の様子

モダンな内装の店内には整然と商品が並ぶ

森岡:初めての実店舗だったので、商品のレイアウトは手探りで行い、現在も試行錯誤しているところです。元々がEC用の商品なので、パッケージに商品名が書かれていないものも多く、そのため棚に商品名を掲示するなどの工夫をしました。

現実路線で世界に誇れる無人店舗に育てていきたい

――無人ストアに向いている業種や商品というのはあるのでしょうか?

鈴木:すべての業種や商品に可能性があると思います。それよりも、導入のポイントとなるのはシチュエーションやロケーションです。

例えば、イベント会場などの臨時店舗や、僻地で人件費が売り上げに見合わない店舗などは、無人化で得られる恩恵が大きいと思います。また、ユーザーの利便性を考えれば、オフィス内などの限定された空間でも需要があるはずです。

もし、社員証をかざすと自動的に決済される仕組みがあれば、オフィス用品や日用品などの購入に便利だと思いませんか? 薬箱から使った分だけの代金を支払う「配置薬」が電子化されたような感覚で、緊急時や必要なときにすぐに商品が手に入るというわけです。

いずれにしても、少子高齢化が進む日本では、無人店舗は今後、確実に増えていくと思います。労働力人口は減少の一途をたどり、日本全体で人手不足は避けられないわけですから。

鈴木氏と森岡氏

「データを蓄積して無人店舗の可能性を検証していきたい」という森岡氏(右)と鈴木氏(左)

――最後に、今後の目標について教えてください。

森岡:これまでどおり、ユーザーの利便性を追求することに尽きます。

今回の実店舗の取り組みは、「間接資材のシームレスな供給ネットワークの構築」という大きな目的に向けてのワンステップです。最近では、「オムニチャネル」(実店舗とECサイトを連携させ顧客をフォローすることで、機会損失を防ぐ戦略)という言葉も浸透していますが、より便利に、よりスピーディーに商品を提供するための、さまざまな可能性を模索していきたいと思います。

サプライチェーンのなかでは、我々のような小売業がもっともユーザーに近く、ユーザーの意見をもっとも吸収しやすい立場にいます。とにかくユーザーに寄り添い、サービスを改善する努力を続けていきたいですね。

鈴木:当面の目標は、モノタロウさんと協力しながら、より高いレベルの無人型店舗を完成させることです。

今回、ECの雄ともいえるモノタロウさんが実店舗の運営に乗り出したことで、流通と小売に限らず、サプライチェーン業界に大きなインパクトを与えました。既存のシステムに波紋を投げかけたといってもいいと思います。

ただ、まだまだ改善の余地があるので、さらに技術開発を進めて、世界に誇れる無人店舗に育てていきたいですね。超巨大資本が手がける無人店舗も一長一短で、完璧なシステムではありません。現実的な路線で、より洗練された無人店舗にしていきたいと思います。

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