小売業こそがマーケティングの最前線?トライアルの最新スマートストアに学ぶIT活用

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小売業こそがマーケティングの最前線?トライアルの最新スマートストアに学ぶIT活用

取材・文:中野渡淳一、写真:井上秀兵


どこからでも欲しいときに欲しいものが買えるeコマースに対し、価格以外で実店舗が顧客に提供できる価値は何かーー。その1つの答えが、トライアルが2018年2月に福岡県福岡市にオープンさせた「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」だ。

700台のスマートカメラや150台のスマートレジカートなど最新テクノロジーを結集し、買い物にかかる利便性と快適性はもちろん、収益性も確保しているスマートストアを訪ねてみた。

※情報流通革命を推進するトライアルの企業文化や経営ビジョンについてはこちらの記事を参照

スムースな買い物体験を支える最新テクノロジー

福岡市の新興エリア・アイランドシティに位置する「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」は、トライアルカンパニーの主力業態であるスーパーセンター(生鮮食料品から生活消耗品をワン・ストップで提供する店舗)に、AIなどの最新テクノロジーを導入した、業界が注目するスマートストアだ。

トライアルの店舗といえば、ブルーのコーポレイトカラーに白地の「TRIAL」のロゴが目印となっている。アイランドシティ店も外観は他の店舗と変わらない。しかし、入口に足を踏み入れると、すぐに通常の店舗とは違うことに気づく。エントランス上部に設置された大型サイネージには、買物に便利なプリペイドカードの情報やメーカー各社の広告が表示されている。

このサイネージは、アイランドシティ店の特徴である「リテール(小売り)メディア」(後述)の1つだ。

サイネージの写真

アイランドシティ店の入り口に設置された大型のサイネージ

サイネージの下のカート置き場には、タブレット端末と買い物カゴが付いたスマートレジカートが並ぶ。ITベンチャーのRemmoと共同開発したこのカートは、事前に会員登録、現金をチャージしたプリペイドカードを読み取らせてログインすることで、レジ機能が作動するようになっている。

顧客は欲しい商品のバーコードをカートに搭載されたスキャナーに読ませるだけで、面倒なレジ待ちを省略することができるという。

スマートレジカートの写真

スマートレジカートにはバーコードスキャナーが搭載されている

そのようにして購入商品をカゴに入れ、出口横のレジスペースを通過するだけで、自動的にプリペイドカードから購入金額分が差し引かれる。あとは有料のレジ袋を購入するかどうか判断し、レシートを受け取れば買い物は終了。スムースな買い物体験を顧客に提供している。

レジスペースの写真

レジスペース通過時にカート下部のバーコードをスキャンされることで自動的に決済が完了する

「現在は商品バーコードのスキャン漏れを防止するため、最後に従業員がチェックします。今後、リピートいただいているお客様はチェックなしでスムーズに通すなど、過去の履歴を生かして改善していきたい。最終的には、決済時に従業員がいなくても買い物が成立する仕組みを編み出したいと考えています」

そう語るのはトライアルグループのAI戦略を牽引する西川晋二氏だ。

西川さんの写真

株式会社トライアルホールディングス 取締役副会長 グループCIO 西川晋二氏

「商品の購入プロセス以外にも、従業員の時間を消費する発注作業を自動化する取り組みを10年以上にわたって続けています。現場やバックヤードで行う作業の省力化によって、お客様に対するサービスの向上にもつながっています」(西川氏)

人と商品の動きを次世代のマーケティングに活用

開放感溢れる店内には、天井からいくつものスマートカメラ(AIカメラ)が吊り下げられている。

「店内を網羅する形でスマートカメラを約700台設置しています。いずれもAIを活用した画像認識機能を搭載しており、商品棚から動いた商品や、顧客の人数や動線、性別、年齢層などをリアルタイムで把握することが可能です」(西川氏)

700台のうち600台は、トライアルが既製品のスマートフォンを流用することで独自開発した商品認識用のカメラで、残りの100台が顧客の動線など「人」を認識するカメラ(パナソニック製)だ。

スマートカメラの写真

「商品」を認識するカメラ(左)と「人」を認識するカメラ(右)

「商品認識用のカメラは商品棚ごとに1分間に1枚のペースで撮影し、どの商品がどれだけ売れたか、あるいは手に取られたかといったことを記録します。“人”を認識するカメラはお客様の動線に設置し、店内でお客様がどう動かれたのかをヒートマップにして可視化しています」(西川氏)

撮影した店内画像は、プライバシーに配慮するためカメラ内でマスキング処理をしながら、顧客の性別、年齢、動線などをデータとして保存する。これにより、店内での顧客や商品の動きを可視化し、詳細に把握できるようなった。

小売業ではこれまでも、実際に購入された商品に関するデータを集めることはできた。しかし、画像認識機能を駆使すれば、一度は手に取られたものの最終的に購入には至らなかった商品についても、購入される前段階の「接触情報」を取得できる。いま、取引メーカーとタッグを組み、こうした接触情報を商品マーケティングに生かす動きが進んでいるという。

リテールメディアを活用したテストマーケティングが実店舗の価値を高める

アイランドシティ店には、高度な商品マーケティングを行うための仕掛けがもう1つ存在する。先述した「リテールメディア」だ。

本記事の冒頭で紹介した大型サイネージをはじめ、アイランドシティ店にはいくつものリテールメディアが実装されている。例えば、スマートカートのタブレット端末や、液晶マルチディスプレーなどがある、また、通路に面するエンド棚は顧客の動きに合わせてインタラクティブに情報が切り替わる小型ディスプレーの付いた「スマートシェルフ」となっている。

特に、スマートカートのタブレット端末では、同時に買うべき商品のレコメンドや、顧客にとってお得なクーポンを提供するなどの機能が組み込まれており、店頭での商品プロモーションに大きく貢献している。

タブレットの写真

スマートレジカートのタブレット端末には商品のレコメンドやクーポンなどさまざまな情報が表示される

リテールメディアの写真

商品のCMなどを表示する液晶マルチディスプレー(上)と顧客の動きに合わせてインタラクティブに情報が切り替わる小型ディスプレーの付いたスマートシェルフ(下)

西川氏が言うには、実店舗を訪れる顧客の多くは、漠然と何かを買おうとは思っていても、どのブランドのどの商品かというところまでは決めていない「非計画購買」が多い。そういった顧客に対しては、リテールメディアによるプロモーションは非常に効果的だという。

「取引メーカー様には新商品の“テストマーケティングの場”として、アイランドシティ店を活用いただいています。我々のスマートストアは、お客様にとって便利で、メーカーにとって効率が良く、実店舗の価値を高めることで商品に関わるサプライチェーン全体がwin-winになれる場にしたいと考えています」(西川氏)

目指すのは収益性を確保した高付加価値のスマートストア

「スマートストア」というと、まず頭に浮かぶのはアメリカの「Amazon GO」だろう。レジを通さずに商品を持ち帰ることができるジャストウォークアウト型の店舗には、最新のIT技術が集約されている。

ただし、そこに費やされるコストは莫大で、テクノロジーのショウケースとしてはともかく、実際に商品を販売して収益をあげるのは至難の業だ。これに対して、トライアルのスマートストアは技術の導入コストを極力低く抑えることで、店舗の早期黒字化につなげているという。

「我々は現実路線です。例えば、スマートカメラとして格安スマートフォンを使うなど、コストをできる限り下げている。アイランドシティ店をモデルケースとして、単一店舗で収益をきちんとあげられるスマートストアをさらに展開していく予定です」(西川氏)

トライアルが目指すのは「AIによって消費ニーズとのマッチングが最適化された、お客様に楽しいと感じてもらえる店舗」だ。そのビジョンどおり、アイランドシティ店ではITの活用によって顧客に実店舗ならではの買い物体験を提供している。さらに、IT活用で省力化できた店舗従業員の人的リソースを、人にしかできない業務に集中させ小売業の付加価値を高めるという、本質的な改革が実現しつつある。

リアル店舗だからこその買い物の価値を高めるIT戦略で、流通小売業界にイノベーションを起こす――トライアルの壮大な試みは始まったばかりだ。

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