小売業の情報革命を推し進めるトライアルのビジョンとは

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小売業の情報革命を推し進めるトライアルのビジョンとは

取材・文:中野渡淳一、写真:井上秀兵

人口減、消費者の行動の変化、アマゾンをはじめとするeコマース(以下、EC)の台頭などの影響により、日本の流通小売業各社は厳しい生存競争にさらされている。そんななか、AIやIoTといったIT技術を活用し、流通小売業界で先駆者として企業改革を進めてきたのが、福岡に本社を置くトライアルだ。トライアルホールディングス取締役副会長 グループCIOの西川晋二氏に、ITを活用した情報流通革命に取り組む企業文化や小売業界の未来に対するビジョンについてうかがった。

自らが創造的破壊者にならねば生き残れない

トライアルの店舗は日本全国に200店以上、国内だけでなく韓国にも出店している。生鮮食品から衣服まで生活に必要なあらゆるカテゴリーの商品をそろえた大型店舗の「スーパーセンター」を中心に、EDLP(Everyday Low Price)を提供し、顧客の支持を集めている。

さらに、最近ではパナソニックと共同で行ったウォークスルー型店舗の実証実験(詳しくはこちら)、レジ待ちいらずのスマートレジカートや700台のスマートカメラ(AIカメラ)を導入した「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」のオープンなど、ITの活用事例して新たな価値づくりを進めている。

こうしたIT技術を活用した先端的な取り組みに同社を駆り立てているものは何か。その背景には、「第4次産業革命と、アマゾンに代表されるECの台頭」があると、西川氏は語る。

「AIやIoTがもたらす第4次産業革命によって流通小売業界は大きく変わると言われています。かたやアマゾンのようなデジタルディスラプター(創造的破壊者)は最初からデジタルをフルに使って我々の市場に攻め込んできている。これに対抗するには、自身もデジタルディスラプターになるしかない。2018年2月にオープンしたアイランドシティ店はそれにトライした日本初のスマートストアです」


西川さんの写真

株式会社トライアルホールディングス 取締役副会長 グループCIO 西川晋二氏

トライアルが他社に先がけてスマートストアをオープンできた理由は、40年前の創業時から事業の1つとしてソフトウェアの開発を手がけてきたという歴史にある。

「当社は創業者で現会長の永田久男がコンピュータエンジニアだったこともあり、以前から小売業にITを活用してきました。これは創業時からのDNAと言っていいでしょう」(西川氏)


※独自のIT・AI技術を結集させたスマートストア「スーパーセンター アイランドシティ店」についてはこちらの記事を参照


ITを用いて小売業の現場をよりスマートに

トライアルは、10年以上も前から顧客の目に触れないところで、ITを利用した業務の機械化、自動化、効率化を推進してきた。

例えば、小売店にとって、売れた商品を補充するために、1つひとつ目で確かめて発注をかけていくというのはすごく手間と時間がかかる作業だ。特に、トライアルの主力業態である「スーパーセンター」のように取扱商品数の多い店舗では、発注作業に多くの従業員が膨大な時間を消費してきた。

「最初の試みは非常に原始的で、売れた数をそのまま発注していました。そこから少しずつ、季節ごとの傾向や棚割計画との連携などの設定を加えて予測のアルゴリズムを作り、改善を繰り返して自動発注システムを構築していきました」(西川氏)

このような取り組みを経て、現在では変動の激しい生鮮食品や店内に山積みする特価品などを除けば、ほとんどの商品が自動発注されているという。

また、トライアルには自動発注以外にも現場の店舗従業員の業務をスマート化する仕掛けがある。

小売店の従業員というのは、一般的に思われているよりもコンピューターに向かう仕事が多い。各種の確認作業や棚札、店頭で使用するPOPの発行、他店舗への商品の振り替え業務などの作業を、いちいち売り場とバックルームを往復して行うのは非常に効率が悪い。それを解決したのが、2010年ごろに導入された「現場のオペレーション」と「コミュニケーション」と「インフォメーション」という、3つの必要な機能をスリーインワンで組み込み自社開発した携帯端末だった。

売り場にいる従業員は、例えば目の前にある商品の情報が知りたければ、携帯端末で商品のバーコードをスキャンすることによって、在庫や直近の売上数などをその場で瞬時に把握でき、最低限の人数で店舗運営ができるようになるなど、大幅な業務効率化を実現できた。


携帯端末の写真

店舗従業員の業務効率化のために自社開発した携帯端末


最大の強みは「Fail Fast , Fail smart」のマインド

トライアルは先述したITにかかる取り組みを実践するにあたり、システムの大半を自社開発している。その要となるIT人材の多くは、中国に設立した現地法人で育成しているのも特筆すべき点だ。

「中国で人材を探し始めたのは15年ほど前からです。当時は小売業でのIT活用が今ほど一般的でなかったこともあり、我々が日本で優秀なIT人材を確保するのは難しかった。そのため、中国で技術者の育成に取り組むことにしたわけです」(西川氏)

現地のエンジニアは社内のカリキュラムを通じて日本語を学び、実際に日本の店舗でさまざまな仕事を体験して現場に関する知識を深めるなど、その教育体制にも「現場主義」姿勢が表れている。いまでは多くのエンジニアが日本に転籍し、リーダークラスの人材は業務のすべてを日本語でこなしているという。

そのほかに、国内のIT人材の積極的な中途採用にも早くから取り組んできた。実は西川氏自身も16年前にIT人材としてやってきたという経歴の持ち主だ。

「私が入社した2002年頃のトライアルは現在の規模ほど大きくはありませんでしたが、ITを活用してどんどん競争力を高めようという意志がみなぎっていました。その様子をみて、小売業はフロンティア、つまり新しいことに挑戦できる業界だと確信したのです」(西川氏)


西川さんの写真


しかし、消費者行動の変化やECの台頭などの変化も激しく、西川氏は常に「変わらなければ淘汰される」という危機感を持つ。

「変化し続けるためには、新しいものがあればまずは挑戦する。はやくトライしてはやく失敗する(Fail Fast)、そして賢く失敗する(Fail Smart)という考え方を大事にしています」

そうしたマインドにもとづいて自社で開発されるITシステムのメリットは、改善やバージョンアップを自己の意志で迅速に行なうことができるところだ。そうした取り組みの根底にあるのは「大切なのはお客様によい品をより安く、便利に、快適に買っていただくこと」という小売業者としてのポリシーにほかならない。

実店舗の価値は「出合い」にこそある

AIやIoTによって、今後加速度的に様変わりすると予想される流通小売業界。トライアルのような実店舗にとっては、特にECの台頭は脅威だと言われている。

しかし、市場全体のうちECの占める割合を見ると、日本ではまだ1桁といったところ。その背景として、最初から何を買うか決めている「計画購買」ではECを利用する人が多いが、それ以外の大多数を占める「非計画購買」では圧倒的に実店舗が利用されているからだ。ここに着目する西川氏は「実店舗が成長できる余地はまだまだある」と話す。

「トライアルが目指す実店舗のビジョンは、足を運べば、買いたいと思える商品に出合える。そしてどの商品も安い。一方で、レジ待ちのような面倒ごとからは解放され、買い物の“楽しさ”を味わうことができる。そのような『すべてのお客様が嬉しいと感じる買い物体験の実現』です」


西川さんの写真


スマートストアであるアイランドシティ店(詳しくはこちら)では、すでにそうした世界の一部が実現されているという。

「そのためにもAIを始めとしたIT技術を駆使したサプライチェーン全体の改革が必要です。我々、小売業には大きな可能性があります。メーカーと小売が利益をとりあうのではなく、サプライチェーン全体の発展のために業界全体に流通情報革命を引き起こし、小売業の価値を向上させていきたいと考えています。すべては、“お客様の求めているものを提供したい”という小売業の本質を追求するため。その手段として、ITテクノロジーを活用しながら、さらなる改善を続けたいと考えています」

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